つやだしのレモン

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『13の理由』 マイノリティは加害者にもなりうる

 『13の理由』Netflixオリジナルドラマ。全13話。感想と批評。ネタバレあり。

 

 

【好きなところ】

・過去と現在が入り交じる映像

 ハンナがいた「過去」と、ハンナのいない「現在」。過去と現在の出来事がないまぜになって提示される。「現在」のクレイが、「過去」の出来事に思いをはせる形で話が進んでいくのだが、現在と過去とのつなぎがシームレスなので、主人公の回想に素直に寄り添うことができる。

 過去と現在を混ぜる表現は、それが「過去」の映像なのか、それとも「現在」なのかが分かりづらくなるという欠点があるが、このドラマでは、「現在」のクレイにマークをつけることで解決している。「現在」のクレイは自転車に乗っているときに転び、額にケガをする。そのケガのあるなしで、現在か過去かが分かるようになっている。

 

・周到な伏線

 「現在と過去をないまぜにする」ことと、「視聴者に提示する情報を抑える」ことによって、巧みに伏線を張っている。「あのときのあのセリフは、こういう意味だったのか」とあとで気づく場面が結構ある。

 例えば、学校の校長が、「短い間に2人の生徒が亡くなって、他の生徒は動揺している」というようなセリフを言う場面がある。この段階では、1人の生徒(ハンナ)しか死んでいないので、「2人」というのはどういう意味だろうと視聴者は疑問に思う。だが、第10話で、ジェフという生徒が事故死していることが分かり、校長の「2人」の意味がやっと通じる。そして同時に、ジェフというキャラクターは、クレイの回想の中には登場するが、現在のクレイの周りにはいなかったことにも気づく。

 

・マイノリティは加害者にもなりうる

 ハンナの「リスト」に上がっているのは、以下の11人。

 ジャスティン・フォーリー[貧困]
 ジェシカ・デイヴィス[黒人]
 アレックス・スタンダール
 タイラー・ダウン[いじめられっ子]
 コートニー・クリムゼン[アジア系][同性愛者]
 マーカス・コール[黒人]
 ザック・デンプシー[アジア系]
 ライアン・シェイヴァー[同性愛者]
 シェリ・ホーランド[黒人]
 ブライス・ウォーカー
 ポーター先生[黒人]

 何らかのマイノリティか、社会的弱者の立場にある人間が多い。マイノリティや社会的弱者は、被害者となることが多いが、しかし同時に加害者にもなりうる。

 マイノリティや社会的弱者にスポットを当てるときに、イノセントな存在として神聖化するのではなく、同じフィールドにいる存在として普通に扱っている。さらに、この物語では彼らは「加害者」の立場である。同じ人間だからこそ、被害者であると同時に加害者にもなりうる。マイノリティ・社会的弱者の、自然で無理のない描き方である。

 この物語中の死者は、ハンナ、ジェフ、アレックスの3人だが、みな中流家庭の白人である。こうした人物配置を見ても、「マイノリティは加害者にもなりうる」というドラマ製作者のメッセージが読みととれる。

 


【嫌いなところ】

・展開がスローすぎる

 1話1時間で全13話。

 13の理由だから全13話にしたんだろうが、そのせいで話の進みが遅く、見ていてイライラすることが多かった。「そのシーン必要か?」と思わざるをえない場面がちらほら。そのせいで話のテンポが悪くなる。1話は30分でも十分だったと思う。

 

・ハードルを上げすぎ

 「展開が遅すぎる」ということと関連するのだが、話の進みが遅いせいで、後半にかけてハードルが上がりすぎてしまい、それを超えられていない。いわゆる浦沢直樹パターン。

 例えば、「クレイはハンナの自殺にどう関わっているのか?」ということについて。主人公であるクレイが、ハンナの自殺にどう関係しているかは、このドラマの中心的な「謎」として、何度も言及され、その解答に向けて期待が高められていく。

 けれども、第11話で明かされたそのその解答は、あまりにも弱い。視聴者を焦らして焦らした末に明かされる答えは誰でも予想がつくこと。マーカスがクレイに言った「お前のテープを聞いてみろ」というセリフや、トニーの「お前がハンナを殺したんだ」というセリフは、いったい何だったのか。

 この「ハードルをやたらに上げすぎて視聴者を煽った結果、超えられなくなる」という問題は、アメリカのドラマを見ているとよく遭遇するので、『13の理由』でもそれを繰り返すのかと思うと少し醒めた。