つやだしのレモン

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ジャン・ユンカーマン『沖縄 うりずんの雨』 3つの差別

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うりずんの雨』パンフレット

 

はてなダイアリー2015/08/01より再録)

 

 神保町の岩波ホールで観た。

 この映画では、「沖縄」をめぐる問題の根底にある、様々な差別意識が語られている。映画の中で、証言者を通じて浮き彫りにされていた差別意識は、あえて大まかに言うならば以下のようなものである。

・「アメリカ人」が、「日本人」を差別する
・「日本人兵士」が、「沖縄の人々」を差別する
・「男性」が、「女性」を差別する

 沖縄の問題では、アメリカと日本の2つの政府間の思惑によって、沖縄に住む人々の生活が侵害されているということが話題の中心にあり、この映画でももちろん、その点にクローズアップして話は進んでいくのだが、映画の中で証言する人々の言葉を聞いていると、「アメリカと日本」という2つの国の間の問題というだけでは収まらないような、より根本的でより個別的な問題があるということに気づく。

 

アメリカ人」が、「日本人」を差別する

 2004年の8月13日、アメリカ軍のヘリが沖縄国際大学のキャンパス内に墜落する事故があった。事故が生じてすぐに、アメリカ軍の海兵隊員たちがフェンスを乗り越えてキャンパスを占拠し、事故現場を撮ろうとする報道関係者たちはアメリカ軍兵士たちによってシャットアウトされた。この映画の冒頭では、ペリー率いる艦隊が沖縄の那覇港に寄港した事実が語られるが、100年以上前の時代と変わらずに、未だに沖縄ではアメリカ軍に実質的な治外法権が保証されているわけである。

 アメリカ軍が海外へ派兵する兵士の多くは、生れた町から出たことがないような若者たちであり、彼らにとっては「アジア、エキゾチックな国としての日本」というイメージがいまだに息づいている。アメリカが沖縄の基地を決して手放そうとしないという大元の事実や、アメリカ軍兵士による日本人女性への性暴力は、アメリカ人による日本人への差別意識がいまだに消えていないことを意味しているのだろう。


「日本人兵士」が、「沖縄の人々」を差別する

 沖縄戦では、それに参加した日本軍兵士だけでなく、沖縄に住んでいた住民たちも数多く犠牲になった。沖縄に派兵された日本軍兵士たちは、そこで沖縄の人々の生活を目にするわけだが、当時の沖縄の人々の食事は、芋やタピオカ、豚肉などが中心であり、日本人兵士の眼には、そのような沖縄の人々の生活は、「大和民族」とは異質なものとして映ったのだと、元日本軍兵士は語っていた。食事だけでなく、言葉の違いも大きかっただろう。そして、沖縄の人々が自分たちとは異質な人間なのだという兵士たちの意識が、その後の日本兵による住民殺害事件や集団自決での被害につながったのだと言う。


「男性」が、「女性」を差別する

 米軍基地の兵士たちによる、日本人女性のレイプ事件は、沖縄に基地が誕生した日以来の問題である。アメリカ軍の元海兵隊員は、沖縄に配属された時、上官から「沖縄には米軍兵士とほぼ同じ数の売春婦がいる」と言われたと語っている。1995年の女子小学生暴行事件の加害者は、映画内のインタビューで、仲間からの「レイプしよう」という言葉に乗って女子小学生を拉致・強姦したんだと言う。この事件が恐ろしいのは、3人のアメリカ人兵士が、レイプという犯罪行為に自ら進んで加担していることである。単独犯ではないのだ。3人のアメリカ人が、幼い日本人女性をレイプするという共通の目的のもとで一致して協力しているという恐ろしさ。日本人女性を性的に搾取することが、彼らにとっていかに当たり前の行為だったのかが分かる。元陸軍憲兵隊の隊員も、レイプが「いつも起こっていて、大したことだとはされていなかった」と映画内で証言している。

 また、この性暴力は、アメリカ人兵士により日本人女性に対して行われるだけではなく、アメリカ軍内部にも存在していることを、この映画は伝えている。アメリカ軍内部の女性兵士らは長らく、男性兵士たちの性的搾取の対象にされてきたのだという。映画内では、そのような性暴力の被害者となった(元)兵士たちが、自らのレイプ体験と、それをもみ消そうとする軍隊内部の圧力について、涙ながらに語っている。アメリカ軍の調査によれば、日本の米軍基地内では、過去8年間で、約270件の性暴力が報告されているとのことである。

 

 学校で日本史を学んだ時、昔は身分が分かれていて、差別意識が強くあって、それが人々の生活を縛っていたということを教わるが、そうしたことはすでに過去に置いてきたことなのではなくて、差別の眼は、歴史の流れの中で形を変えながらもいまだに人間の中に潜み棲んでいることを、2時間を超えるこのドキュメンタリー映画は伝えている。

 この映画で印象的なのは、今の沖縄の問題について歴史的な背景を説明しながら語っているとともに、沖縄の問題の根底にあるはずの根強い差別意識を明らかにしていることである。そして、差別は、単にアメリカ人から日本人に向かって存在しているだけではなくて、日本人の間にもあるし、アメリカ人の間にもある。アメリカ軍の兵士内では、白人による黒人差別もあっただろうし(1995年の女子小学生暴行事件の加害者3人はいずれも黒人である)、日本の「本土」に住む人々が沖縄の人々を差別しているという側面もあるだろう。こうした様々な差別の連なりが、沖縄の問題をこれ以上ないほどに複雑にしている。