つやだしのレモン

読んだもの、見たものの感想を書く場所。

マーティン『洋梨形の男』 不ぞろいな短編集

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

 

  「奇想コレクション」と銘打たれたシリーズの一作。

 マーティンのファンなので読んだものの玉石混交で、石のほうが多い。短編集『サンドキングズ』や『ナイトフライヤー』にあったような不可思議さ、ワクワク感に乏しい。どこかで読んだことがあるような内容が多かった。

 「玉」だと思ったのは「子供たちの肖像」「成立しないヴァリエーション」の2作。

 

・モンキー療法 The Monkey Treatment

 スティーブン・キング『痩せゆく男』みたいな、肥満男性のダイエット体験をホラーで味付けした一品。

 マーティンもかなりふくよかな体型をしているので、おそらく自らの経験も多分に含まれている。食事シーンのディティールが細かいのもマーティンの特徴。

 

思い出のメロディー Remembering Melody

 メロディーという名の旧友につきまとわれる話。ホラーとして定型的で、どこかで読んだことがあるような内容。

 

・子供たちの肖像 Portraits of His Children

 作家の生みの苦しみをテーマにした中編。日本の私小説に通じるようなテーマ。

 最後の3行で一気にひっくり返しにくるのも面白い。

 絵がミッチェルではなく別の画家の作品だとしたら、娘のミッチェルとのゴタゴタはすべてリチャード・キャントリングの妄想ということになる。ミッチェルは実在の娘のように書かれているが、それすらも虚構で、彼の作品の一部だった。

 この作家の精神が壊れてしまっているようにも読めるし、「作家というのは現実と虚構を区別できなくなるくらいの強烈な想像力を持っていないと作品を生み出せない」ということを伝えているようにも読める。

 途中の、性について赤裸々に書いた本は売れる、みたいな話も面白い。

 

・就業時間 Closing Time

 ユーモアファンタジー。『タフの方舟』を見る限り、マーティンはユーモア含みの作品を書くのもうまいが、これはちょっとやり過ぎでは。

 

洋梨形の男 The Pear-Shaped Man

 洋梨を連想させる気味の悪い男にとりつかれる女性の話。これもホラーの定型で、怖さも奇妙さも今ひとつ。

 

・成立しないヴァリエーション Unsound Variations

 チェスのチーム戦をめぐる復讐譚。でも単なる復讐譚ではない。SF的要素も最小限の舞台装置として使われている。

 終盤の、ピーターと妻との会話が味わい深い。ピーターたちを追い詰めていたはずのバニッシュが、最後には逆に追い詰められて「成立しないヴァリエーション」にはまりこむというラストも見事。