つやだしのレモン

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西野マルタ『五大湖フルバースト 上・下』(講談社、2012年)

五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)

五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)

●作品メモ

  • 絵がたいへん個性的である。輪郭が太い線で描かれていて、影が細い線でびっしりと描かれている。下巻の後半に、『両国リヴァイアサン』という、『フルバースト』よりも前に描かれた漫画が載っているが、その画風はとてもいい。全体的にデッサンがおかしくて、書き込みも過剰なのだが、一度見ただけで忘れないくらいのインパクトがある。『両国リヴァイアサン』の荒削りの絵が、次第に洗練されて『フルバースト』へと至ったのだと思うが、どちらのタイプの絵にも魅力があっていい。
  • アメリカ」で「大相撲」という、不思議な舞台設定で物語が進む。近未来、大相撲がアメリカを席巻し、国民的スポーツとなっていて、アメリカ出身の力士たちが日夜しのぎを削っている。中でも多彩な技をもち圧倒的な人気を勝ち得ているのが「五大湖」という四股名の力士で、この五大湖が最強の力士であるがゆえにもがき苦しむさまが描かれている。
  • 独特な画風に、独特な舞台で、たいへんいい匂いをさせている漫画なのだが、物語自体は少年漫画のノリで進んでいくので、少し拍子抜けするというか、私の中で期待していたものとのミスマッチがあった。「超一流のスポーツ選手の誇り」や「わが子との意思のすれ違い」など、ストーリーは少年漫画の王道を走っていく感じで、キャラクターも「ドクター・グラマラス」というブロンドの美人科学者や、スパルタ教育で息子をしごく「理事長」、父親に愛されないがゆえに自閉する「クリス」など、こちらも王道をひた走っている。
  • 絵柄が独特で、話の雰囲気も異質だったので、『シグルイ』のような、半ばぶっ壊れている物語を期待していた。もっと常軌を逸していてもいいタイプの画風だと思う。絵柄と物語が、やや噛み合っていないようにも見えた。あと、こういうストーリーならば、表紙はこんなオシャレな感じを出すのではなくて、もっと分かりやすいものの方がよかったのでは。色遣いが渋くてかっこいい表紙なんだが、このテイストだと中味を誤解する人も多くいると思う。