つやだしのレモン

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堀尾省太『刻刻』 見せ方がとにかく巧い漫画

刻刻(1) (モーニングコミックス)

刻刻(1) (モーニングコミックス)

 

 ・緻密な設定

 設定がとにかく緻密。物語の中でのルールが確立されていて、そのルールに則ったうえでの読み合いが熱い。『ジョジョ』とか『ハンターハンター』のよう。

 

・見せ方がうまい

 漫画として見せ方がうまい。とにかくうまい。いやらしいほどにうまい。

 第1巻で、主人公のOLが自宅に入ると、父がぼーっとしていて、兄がテレビゲームに興じている。二人ともうつろな眼をしていて、ただ時間が過ぎていくことを待って生きているような感じ。このコマだけで、父と兄の2人の人物がどういう性格なのかが分かる。

 しかも、ページ半分を使ったそのコマの下に、テレビゲームの画面のコマを入れて、そのさらに下のコマで主人公に「お父さん それ見て面白い?」と言わせている。いったんテレビのコマを挟むそのセンスも素晴らしいし、「主人公がこの2人の怠惰な生活にもう慣れてしまっている」ことが分かるセリフも素晴らしい。このページを見ただけで、この漫画を書いている人は超ウマい漫画家だということが分かる。

 このあとも、幼稚園に真を迎えに行った翼が変質者に勘違いされる場面(樹里があえて嘘をつく)、真と翼が誘拐される場面(誘拐犯が翼の視線をそらす)、カヌリニが初登場する場面(左腕が建物にめりこんでいる)など、感心のため息しか出ないような巧い描写が続く。

 

・惜しむらくは、キャラクターの個性がやや弱いこと

 キャラクターに魅力がそれほどないので、そこは少し不満。割とみんな、頭が良すぎるというか、危機的な状況なのにいやに冷静に考えるし、論理を徹底的に積み重ねて結論に至ろうとするしで、人間味がないように見えてしまう。

 これは岩明均の漫画でも同じことを感じる。あまりにもキャラの頭が良すぎて、共感する隙がないんだよね。たぶん、作者が賢すぎて、細かく展開を考えられるがゆえなのだろう。