つやだしのレモン

読んだもの、見たものの感想を書く場所。

今月読んだもの 2020年5月

 

ジョージ・R・R・マーティン七王国の玉座』上・下

 コロナで休みの間に、「氷と炎の歌」を最初から読み返している。既刊は第5巻までで、著者の年齢やモチベーションを考えると続巻が出ることはなさそうだけれども、第5巻まででも十分に傑作といえる稀有なシリーズだと思う。

  「氷と炎の歌」が優れているのは、物語に歴史があること。小説の中の「今」よりも前に、国を揺るがす大きな戦いがある。その戦いは小説の題材として取り上げていいくらいに劇的なものだったけれども、小説が描くのはあくまでも「大きな戦いがあったあとの世界」。人々は様々な思いを抱きながら戦後を生きていて、おのおのが少しずつ世界を変えようと動き始めていく。

 スターク家の子どもらを中心に、視点人物がめまぐるしく変わるが、それぞれの人物の視点や言葉を通して、過去の戦争の「痕跡」が断片として表れてくる。それは輝かしい武勲であったり、今の惨めさを強調するだけの過去の栄光だったりする。読者はそうした断片を拾いながら、その戦争でいったい何があったのか、それが世界をどう変えたのかをちょっとずつ学んでいく。その過程がとても面白いのだ。

 

大谷アキラ『正直不動産』8巻まで

 第1、2巻が無料で読めたので読んだらすこぶる面白い。「不動産屋=悪人」という大前提を掲げつつ、主人公は諸事情で本当のことしか話せないという設定が面白い。ただ主人公は善人ではさらさらなくて、スキさえあれば客を騙そうとするのがひねくれていて、「不動産屋=悪人」という定式を強調してくれる。

 

桜庭一樹砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

 「この子、ひょっとして死ぬんじゃないか」と周りの人が心配しているけど、死ぬことを防ぐための行動を誰もとることができずに、結局その子は死んでしまう、というような話。これ、恐ろしいけど実際に結構あるんだろうと思う。児童虐待の現場では悔しい思いをしている人がたくさんいるんだろう。

 ライトノベル風の小説なので、キャラ付けが少々強め。強烈なキャラが物語を牛耳るので、児童虐待の部分がどうしても周辺的に留まってしまっているようにも読める。作者が描きたかったのは、強烈なキャラなのか虐待なのか。

 

服部まゆみ『この闇と光』  

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

 

  面白い設定。映画『ルーム』を思い出す。

 芸術至上主義みたいなものが作品全体に充満しているのが気になる。誘拐という犯罪すらも芸術というオブラートに包み込んでしまうような能天気さはちょっと受け入れがたい。

 

谷崎潤一郎谷崎潤一郎犯罪小説集』 

谷崎潤一郎犯罪小説集 (集英社文庫)

谷崎潤一郎犯罪小説集 (集英社文庫)

 

  「犯罪小説」であって推理小説ではない。だから探偵役による謎解きがあるわけではなく、犯罪行為そのものがテーマになる。

 謎解きというエンタメ性がないぶん、犯罪行為そのもののリアリティが重要になる。犯罪の真に迫った描写とか、犯人が抱える動機の生々しさに期待する。

 でも、この本に収録されている4編はその点でいうとどれも中途半端。精神を病んでいる人の犯罪だったり、異常性癖を持つ人の犯罪のような、「異常性」を際立てるような事件を扱っているので、リアリティとは程遠い。

 

乾くるみイニシエーション・ラブ』  

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 

 以下ネタバレあり。

 

 

 叙述トリックということを知らずに読んだ。なので、最後の種明かしには素直に驚いて、思わず最初から読み返してしまった。

 ただ、この小説は「時代の感覚」が重要なのだが、その時代が「1987年前後」に設定されている。私は1987年をリアルタイムに過ごした世代の人間ではないので、作中で出てくる「男女七人夏物語」とか「BOOWYのラストアルバム」とか「国鉄民営化」みたいな手がかりがどれもピンとこなかった。だから、1987年前後を実際に生きた人向けのミステリである。

 叙述ミステリの欠点は、ラストのどんでん返しにたどり着くまでの過程が退屈になりがちなこと。最後のトリックを隠すために「平凡なミステリ」を装う必要があるのでそうなるのだろうけど、そのぶん読書は退屈になる。実際、途中から流し読みをしていたので、最後の種明かしの意味が分かるまで時間がかかった。

 そういう叙述ミステリの欠点を克服できているのは、筒井康隆ロートレック荘事件』だと思う。登場人物の個性やセリフ、ロートレックのイラストを絡めた物語など、最後のどんでん返し以外の要素への目配りが行き届いていて、筒井康隆にしか書けないミステリになっている。

 

赤川次郎『ひまつぶしの殺人』 

ひまつぶしの殺人 (光文社文庫)

ひまつぶしの殺人 (光文社文庫)

 

  ドタバタ系ミステリ。コメディ要素が強いけど、エグみもあり。

 

PYTHON実践入門』  

 ある程度Pythonを勉強したあとに読んだので、知っている内容が多かった。なので復習として読む。

 「入門」と銘打つわりには各項目の記述が細かい。他のプログラミング言語に精通している人向けの解説書なのかも。

 あと、「学習項目をどのような場面で使うのか」の解説が少ないのも、初心者向けではないように映った。「これはこういう場面で使える」という説明がないと、学びのモチベーションが上がりにくいので。