つやだしのレモン

読んだもの、見たものの感想を書く場所。

今月読んだ本 2020年6月

 

ジョージ・R・R・マーティン乱鴉の饗宴』上・下 

乱鴉の饗宴 (上)
 

 もともと、「氷と炎の歌」は全3巻で完結する予定だったが、それがいつのまにやら全7巻へと増えた。話の骨子は最初から決まっているだろうから、巻数が増えた分は、本来は省くはずだった細部までしっかり描くのにページを使っている。その結果生まれる冗長さが、顕著に感じられようになるのがこの第4巻。

 第3巻までは、視点人物はジョンやサンサやティリオンなどの主要キャラに限定されていたが、この第4巻からは「1回限りの視点人物」が出てくるようになる。ドーンの衛士長アリオ・ホターやアシャ・グレイジョイなどがそう。こういう使い捨ての視点人物の登場が「引き延ばし」感を強くしている。グレイジョイ家やドーン家の内紛をこんなに丹念に書く必要はあったのか。

 作者の年齢やモチベーションを考えると、第6巻以降が出るのは期待できそうにない。こういう引き延ばしがなければ、「氷と炎の歌」はすでに完結していたんじゃないかと思ってしまう。

 

フィリップ・K・ディック『いたずらの問題』 

  ストーリーは予想外すぎて面白い。モレクという道徳に支配された社会では、人々が互いに監視しあい、道徳から外れた人間は追放していく。その中で、類まれな才能である「ユーモアのセンス」を持つ主人公が、社会にいたずらを仕掛けていく。

 ディックなので語りは絶妙。情報の出し方がうまいので思わず引き込まれる。

 一方で、「予想外なストーリー」を作ろうとしすぎているせいで、物語はあちこちに矛盾を抱えている。冒頭で主人公が部下をいきなりクビにするのは意味不明だし、グレッチェンたちがなぜ主人公を拉致したのか謎。ただ、ディックのスタンスは「エンタメとして楽しめればそれでいい」なので、細かいことは考えないほうがいい。

 最後に主人公が匿名の告発に対して投げつける言葉がかっこいい。

 みなまでいわさず、アレンは強引に口をはさんだ。

「もし正体を明かしたら、きさまを息ができなくなるまでぶん殴ってやる。こういう顔のない告発にはもううんざりだ。屈折したサディスティックな心が、こういう集会を利用して、薄汚い細部をほじくりまわし、罪もない行為を手垢で汚して、どんなあたりまえの人間関係にも汚穢と悪とを読みとるんだ」

 

・森健『小倉昌男 祈りと経営』 

 ヤマト運輸で宅急便のビジネスを立ち上げた小倉昌男の、「家庭」の話。先見の明のあるビジネスマンが、家庭で抱えていた問題を明らかにする。

 内容はたしかに興味深いのだけれど、ゴシップを読んでいるような気もして、この本を素直に評価しきれない。小倉昌男という個人の家庭の問題を暴くような内容なので、それって週刊文春が芸能人の私生活を暴くのと何が違うの、と考えてしまう。ゴシップを最上級に着飾ると、こういう本になるのだろうか。

 本筋とは関係ないけれど、昔の佐川急便がめちゃくちゃなビジネスをしていたという記述は面白い。ヤマト運輸が担当していた荷物を無断で横取りし、自分の仕事にしてしまうようなことをやって事業を拡大した、という逸話が強烈(Kindle、888)。

 

・野田彩子『ダブル』1

  演技をしている場面の描写がいい。「第5幕」の多家良と轟の演技シーンの絵の構図と顔の表情が最高。

 キャラの配置的に、今後の展開が予想できちゃう感がある(表舞台に立てない鴨島の葛藤とか、冷田の過去とか、轟の人気俳優ゆえの苦しみとか)けど、この演技シーンを見るだけでも楽しめそうな漫画。

 

都留泰作『竜女戦記』1

竜女戦記 1

竜女戦記 1

 

  『ムシヌユン』の作者の新作。

 ワクワクさせる物語の出だし。ちょっと気が抜けたようなキャラクターと絵柄がこの作者の持ち味だと思う。

 

・『チェンソーマン』7

  『ファイアパンチ』の大ファンなので読んでるけど、なんかイマイチ楽しめないまま第7巻まで来た。

 アクションシーンは見づらいし、キャラは弱いし、恋愛要素は退屈。『ファイアパンチ』のような強烈な個性がない。ジャンプ連載ということで、あえて消しているのかもしれないが。