つやだしのレモン

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『Enderal: Forgotten Stories』レビュー

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Skyrimの大型MOD

 『Enderal』は『Skyrim』の大型MODで、Steamで無料で配布されている(ただしSkyrimの所有が条件)。Skyrimのゲームシステムをベースにしているが、物語の世界観は全く別物で、「Enderal」という大陸が舞台になる。

 本家のSkyrimが「The Elder Scrolls」というシリーズの一作であるのと同様に、このEnderalもまた「Vyn」というシリーズの一作である。Vynは世界の名前で、Enderalはその世界を構成する一つの大陸。このVynのシリーズには他に「Arktwend」(MorrowindのMOD)や「Nehrim」(OblivionのMOD)がある。

 おおまかなあらすじは、「世界に終焉(the Cleansing)が訪れようとしているので、それをなんとかして防ぐ」というザ・王道なファンタジー。ただ、終焉をもたらそうとする存在の謎や、帝国内部の人間関係が緻密に描かれるので陳腐さは全くない。

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GOOD

陰鬱だが練られたストーリー

 とにかくストーリーがよく出来ている。陰鬱だがよく練られている。ジョージ・R・R・マーティンの「氷と炎の歌」シリーズのような、やたらとダークだが惹きつけられる物語。プレイした人であれば、このゲームを引っ張っているのはストーリーだと皆言うはず。

 Skyrimで残念だったのはメインクエストのハリボテ具合。主人公のドラゴンボーンという設定は個性的で面白いが、肝心のプロットが致命的に弱く、興味を持てなかった。ドラゴンボーンという魅力的な設定をまったく活かしきれていなくて、50万円の額縁に2万円の絵を入れて飾ってるみたいな代物。だから、プレイヤーの自由な冒険が核で、メインクエストは添え物という印象だった。

 Enderalは逆で、サイドクエストや派閥クエストの多くが、メインクエストに何らかの形でつながっている。「現世の肉体を捨て、別の世界へ」というテーマが、いろいろなクエストで繰り返し登場する。だから必然的にメインクエストの存在感は強くなり、プレイヤーが能動的にストーリーに関わっていく道筋が整っている。

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巧みな演出

 練られたストーリーとともに驚いたのが、ゲームとしての演出の巧みさ。無料のMODなので、作るのに金がかかるであろうムービーシーンはほとんどなく、ゲームシステム上でキャラを動かす程度の演出に過ぎないのだが、その使い方が巧みで、限られた制約のなかで最大限の可能性を引き出している。

 例えば主人公が見る「悪夢」。夕陽が照らすゆるやかな坂道をのぼり、父と話し、家に入る。この場面が作中で何度かリフレインされるが、そのたびに細部が変わっていく。穏やかな風景なのに、なぜか気味の悪さが充満している。ゲーム冒頭のこの悪夢の場面だけで「いいゲーム」というのが分かる。

 あとは、The Orderを裏切った兵士を尋問する場面。自キャラはそこに同席できないが、ドア越しに「声」を聞くことはできる。交わされる言葉のみに集中させる面白い演出。この声だけを聞かせるという演出は別の場面でも使われている。

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魅力的なNPC

 物語を彩るNPCも個性豊か。Calia, Jesper, Esme, Rynéus, Aged Man, Tharaêl, Qalianなど、背景の設定されたキャラクターが揃っている。CaliaとJesperはそれぞれ専用のキャラクタークエストがありつつ、メインクエストにも絡んでくるキャラで、NPCの活かし方がうまい。

 特にEsmeのクエストは素晴らしい。Esmeが以前に恋仲だった女性の今を追うというクエストなのだが、最初から最後まで、その女性に主人公が会うことはない。Esmeの語りと、女性が残した足跡から、彼女の生きた証をたどるだけ。プレイヤーにできるのは死者に思いをはせること、そしてEsmeの悲しみに寄り添うこと。このクエストの名前は「Our Mark on this World」だが、まさにその名前のとおりに、一人の女性が世界に残した跡をEsmeとともに追想するという内容になっている。

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思わず聴き入る吟遊詩人の歌

 あと、これは個人的にグッときたポイントとして、酒場で歌っている吟遊詩人の曲が、思わず足を止めて聴き入ってしまうくらいにいい。特に男声の吟遊詩人の歌は、Enderalというゲームの陰鬱な雰囲気と不思議なくらいに共鳴していて心に響く。

 吟遊詩人の曲はSteamで無料公開されており、YouTubeにも公式でアップロードされている。下は個人的に一番好きな「The Black Guardian」という曲。

 

BAD

戦闘がとにかくシビア

 不満点は、戦闘がかなりキツめなこと。Skyrimは主人公の強さに合わせて敵の強さがスケーリングするので、つねに自キャラと同程度の敵と戦える。一方でEnderalでは敵の強さは固定されている。このシステムは自キャラの成長を実感できるというメリットはあるものの、序盤の戦闘がかなり厳しくなるというデメリットも大きい。序盤に街道をうろつく狼が強すぎて何十回も死んだ。

 あくまでも無料MODなので、万人に受けるゲームではなく一部のプレイヤーにはまればいいというスタンスなんだろうなとは思う。でも、これだけ優れたゲームが、序盤の戦闘の厳しさで敬遠されているとしたらもったいない。Steamの実績取得率を見ると、エンディングに到達しているプレイヤーは全体の5%ほど。

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