つやだしのレモン

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深水黎一郎『最後のトリック』(河出文庫、2014年)

最後のトリック (河出文庫)

最後のトリック (河出文庫)

●作品メモ

  • 「読者が犯人」という、推理小説の究極をつきつめた作品……というか、「つきつめた!」と謳っている作品。

 以下ネタバレ。



  • 「自分が書いた文章を大多数の人間に読まれると死んじゃう!」という病気を抱えた人間がいる。そいつが自分の自伝を本にして、大多数の人間に自分の文章が読まれたことにより死ぬ。これで、読者がそいつを殺した、つまり「読者が犯人」になる、というのがトリック。こうやって書くと、まるっきりトンデモなトリックですね。Amazonのレビューも酷いことになっている。
  • とはいえ、「オチで突然SF」作品であるとはいっても、一応、その伏線は張られている。物語の本筋とは別に、古瀬博士という大学教授がたびたび登場し、その教授が「超能力者」の存在について力説する。それなりに説得力のある話ではあるので、ラストのオチが「被害者=負の超能力者」となっているのも、一応、説明されているわけである。
  • ただ、そうやって説明されてはいるものの、結局のところトンデモにしか見えないのが辛い。推理小説で最後の最後に「特殊能力」が出てくると萎えてしまうのはしょうがない。現実で再現可能な範囲で捻りだしたトリックを期待していたのに、この解決はそこを裏切って実現不可能な方向へジャンプしてしまっている。「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない」と言われた平民の気持ちはこんな感じだったのだろう。
  • せめてこれが、SF世界という舞台設定の中だったら、まだ納得はいったと思う。作者としては、古瀬博士の超能力実験の描写で、「超能力をもつ人間はいるのだ」ということを暗に示しているということなのだろうが、その補強では基盤が弱すぎる気がする。
  • しかし、最後のトリックを除けば、小説としてはかなり面白いし、読ませる。漢語が多いのが少し独特で、かといって語彙をひけらかす感じはなく、すっきりとして読みやすい。