つやだしのレモン

読んだもの、見たものの感想を書く場所。

2012-01-01から1年間の記事一覧

獄門島

横溝正史 『獄門島』(角川文庫) ○印象・感想 1948年発表。金田一耕助シリーズ屈指の傑作にして、横溝正史の代表作。ミステリの重要ポイントは「舞台設定」と「トリック」だと思いますが、本作はそのどちらも最高レベルの作品です。さらに、日本語独特のフ…

Flow My Tears, the Policeman Said

フィリップ・K・ディック 『流れよわが涙、と警官は言った』 (ハヤカワSF文庫) ○印象と感想 フィリップ・K・ディックの代表作の一つ。1974年発表。速筆で鳴らすディックが、長い年月をかけて推敲を重ねて完成させたのが本書。出版の翌年にジョン・W・キャ…

Moon

『月に囚われた男』 (ダンカン・ジョーンズ監督、2009年) ○印象と感想 最近SF映画ばかり見ています。奥浩哉『GANTZなSF映画論』で紹介されていた映画を片っ端からTSUTAYAでレンタルしてます。旧作なので全部100円。いい時代ですね。 制作費は500万ドル。低…

Zeno Clash 印象と感想

『 Zeno Clash 』(ACE TEAM、2009年) ○チリ発・異色FPS チリの独立系ゲーム会社が2009年に製作した異色FPS『Zeno Clash』。本来なら15ドルですが、STEAMのハロウィンセールで値引きされてたので衝動買い。その値段、まさかの0.99ドル! 日本円にして82円の…

氷壁 印象と感想

井上靖『氷壁』(新潮文庫、1956年) ○概要 井上靖の小説はかなり読んでいる。一番好きなのは『しろばんば』。これは氏の作品中でも髄一の名作で、中学受験のときに国語の問題で何度も目にした経験があります。それ以外には『夏草冬濤』『北の海』『あすなろ…

War of the Worlds 印象・感想

『宇宙戦争』 (スティーヴン・スピルバーグ監督、2005年) ○概要 H・G・ウェルズ『宇宙戦争』をスティーブン・スピルバーグが映画化。主演はトム・クルーズ。『マイノリティ・リポート』に引き続いてのスピルバーグ・クルーズのコンビです。 映画の出来に関…

They Live 印象と感想

『ゼイリブ』 (ジョン・カーペンター監督、1988年) 以下、ネタバレ注意 ○ホラーで有名なカーペンター監督のSF映画 「ゼイリブ」というタイトル、どういう意味だろうと思ったら、単に「They Live」をそのままカタカナにしただけ。「ゼイ・リブ」でも「ゼイ…

Starship Troopers 感想・印象

『スターシップ・トゥルーパーズ』 (ポール・バーホーベン監督、1997年) ○究極のベタ、テンポよく走り抜ける 初見かと思ったら小学生のころに一度観たことがありました。「男女の兵士たちが同じ部屋でシャワーを浴びる」場面と、「培養液の中で治療中の主…

Ubik

フィリップ・K・ディック 『ユービック』 (ハヤカワSF文庫) ○ディックの最高傑作 1969年発表。それ以前の数年間に幾多の小説を濫造したことで疲弊し、新たな境地の開拓を目指してディックが書き上げた長編が『ユービック』です。ディック作品に頻出する設…

本陣殺人事件

横溝正史 『本陣殺人事件』 (角川文庫) ○概要 金田一耕助シリーズの初頭を飾る作品であるとともに、日本初の「本格」推理小説として有名です。推理小説において「本格」を定義するのは難しいですが、「事件の真犯人を、ぼんやりとでも断定できるだけの材料…

The Three-Eyed One

手塚治虫 『三つ目がとおる』 (講談社) ○概要 手塚先生が『ブラック・ジャック』と同時期に連載していた漫画。 「第三の眼」を持つ中学生・写楽保介と、その写楽に恋してしまった和登千代子が織り成すドタバタSFコメディ。 内容的には、三つ目人が残した遺…

District 9

『第9地区』 (ニール・ブロムカンプ監督、2009年) ○概要 評判が良いのでTSUTAYAで借りて観ました。「低予算映画」と聞きましたが、それでも制作費は3千万ドル。主演俳優の演技が素晴らしく魅入ってしまいました。 「地球に到来したエイリアンが、難民とな…

Confessions of a Crap Artist

フィリップ・K・ディック 『戦争が終り、世界の終りが始まった』(晶文社) ○概要 SFの鬼才ディックの非SF小説。SF小説ではないので、「未来を予知する能力者」や「服用すると現実世界を変えてしまうドラッグ」や「人間の脳波を探知して飛んでいく小型ミサイ…

三角草

押切蓮介 『ミスミソウ』(ぶんか社) ○概要 押切蓮介さんのシリアスホラー。押切さんといえば『でろでろ』や『ゆうやみ特攻隊』の「ゆるフワ系ホラー」で有名ですが、暗い雰囲気のホラー漫画もいくつか描いています。この『ミスミソウ』はその代表作で、他…

カムイ伝 第二部

白土三平 『カムイ伝 第2部』 全12巻 (小学館) ○概要 『カムイ伝』第一部の最後では、それまで物語の中で積み上げられてきた数々が一気に瓦解し、英雄たちは草葉の陰に隠れ、荒地に蒔かれた種は芽を出した途端に引き千切られました。この第二部では、その…

第60期王座戦

王座戦中継サイト 昨日行われた将棋の第60期王座戦第4局、渡辺明王座 vs 羽生善治二冠、中継サイトで観ていました。その感想。 ○千日手局 後手番の羽生二冠は第2局と同様に振り飛車を採用。第2局では角交換四間飛車でしたが、今回は2手目3二飛戦法。佐…

Counter-Clock World

フィリップ・K・ディック 『逆まわりの世界』(ハヤカワ文庫SF) ○概要 SF作家フィリップ・K・ディックの1967年の作品。ディックが小説を濫造していた時代の作品であるため、SFとしての設定は完全に破綻しています。 世界は「ホバート・フェイズ」なるものに…

白土三平『忍者武芸帳 影丸伝』

忍者武芸帳(影丸伝)(1)作者:白土三平発売日: 2018/02/02メディア: Kindle版 ・あらすじ 1959〜1962年にかけて出版されていた貸本漫画。当時は相当売れた作品らしい。 『カムイ伝』と並び称される白土三平の代表作。なのだが、白土三平は子ども向けに書…

トータル・リコール

フィリップ・K・ディック 『トータル・リコール』(ハヤカワ文庫SF) ○概要 映画「トータル・リコール」の公開に合わせて出版されたPKDの短編集。収録されているのは以下の10作。 「トータル・リコール」 「出口はどこかへの入り口」 「地球防衛軍」 「訪問…

サスケ

白土三平 『サスケ』(小学館文庫) ○あらすじ 天才的な忍者・大猿の息子「サスケ」の活躍を描く冒険活劇。 少年漫画雑誌『少年』に連載。物語の前半(第1〜5巻)は正統な少年マンガを気取ってますが、中盤以降は妙に話がシリアスになっていきます。とりわけ…

VALIS

フィリップ・K・ディック 『ヴァリス』(創元SF文庫) ○あらすじ 麻薬中毒のホースラヴァー・ファットは、自殺願望をもつ友人グロリアを救おうと尽力するも、結局は報われずグロリアは命を絶った。そのことが契機となってファットは精神のバランスを崩し、頽…

Star Songs of an Old Primate

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 『老いたる霊長類の星への賛歌』 (ハヤカワSF文庫) ○あらすじ ティプトリーの第3短編集。収録されている短編は以下の7つ。 「汝が半数染色体の心」 「エトセトラ、エトセトラ」 「煙は永遠にたちのぼって」 「一瞬の…

Hobbit

J.R.R.Tolkien “The Hobbit” ○あらすじ 邦訳名『ホビットの冒険』。ビルボ・バギンズが13人のドワーフと一緒に財宝を探す旅に出るという古典的冒険譚。全19章。時系列で言えば『指輪物語』の前のお話で、どちらかといえば子供向けの作品。とはいうものの、『…

宇宙船ビーグル号の冒険

ヴァン・ヴォークト『宇宙船ビーグル号の冒険』(創元SF文庫) 宇宙の遥か彼方に潜み棲む奇怪な生物との戦いに臨む人間たちの姿を描くスペース・オペラ。巻末の解説によると、奇怪な宇宙生物はSFの世界ではBEM(Bug-Eyed Monster)と呼ばれているらしいです…

ヴォークト『武器製造業者』『イシャーの武器店』 ディックに影響を与えたSF作家

武器製造業者【新版】 (創元SF文庫)作者: A・E・ヴァン・ヴォークト,沼沢洽治出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2016/12/21メディア: 文庫この商品を含むブログを見るイシャーの武器店【新版】 (創元SF文庫)作者: A・E・ヴァン・ヴォークト,沼沢洽治出版社…

エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』 奇妙なアイディアと暴力の嵐

世界の中心で愛を叫んだけもの (ハヤカワ文庫 SF エ 4-1)作者: ハーラン・エリスン,浅倉久志,伊藤典夫出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1979/01/01メディア: 文庫購入: 18人 クリック: 315回この商品を含むブログ (179件) を見る SFの著名な短編集はいくつ…

R.D.Wingfield "A Killing Frost"

A Killing Frost (D.I. Jack Frost)作者: R.D. Wingfield出版社/メーカー: Corgi発売日: 2009/01/06メディア: マスマーケットこの商品を含むブログ (1件) を見る フロストシリーズの最後を飾る傑作。いやー読み応えがあった。これまでにない新たな要素が続々…

マーティン・クルーズ・スミス『ポーラー・スター』 ソ連版『蟹工船』

ポーラー・スター (新潮文庫)作者: マーティン・クルーズスミス,Martin Cruz Smith,中野圭二出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1992/01メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 『ゴーリキー・パーク』の続編。ソ連の元捜査官アルカージ・レンコが、北洋漁船…

ディック『ザップ・ガン』 期待通りのB級SF

ザップ・ガン (創元SF文庫)作者: フィリップ・K.ディック,大森望出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 1989/06メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (6件) を見る たいそうB級臭のするタイトルだが、その期待を一ミリも裏切らない、ま…

R.D. Wingfield "Winter Frost"

Winter Frost (Jack Frost)作者: R.D. Wingfield出版社/メーカー: Corgi発売日: 2004/01/20メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (2件) を見る フロスト警部シリーズ第5作目。翻訳されたら『冬のフロスト』というタイトルになるんだろうか。 内容…