つやだしのレモン

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サスケ

 白土三平 『サスケ』小学館文庫)


○あらすじ

 天才的な忍者・大猿の息子「サスケ」の活躍を描く冒険活劇。
 少年漫画雑誌『少年』に連載。物語の前半(第1〜5巻)は正統な少年マンガを気取ってますが、中盤以降は妙に話がシリアスになっていきます。とりわけ、終盤の3巻(第8〜10巻)の怒涛の展開は圧巻で、全く少年向きではない方向へと物語が伸びていきます。「途中で作者が変わったのか」と思うぐらいに、暗く無情な展開の連続。少年忍者サスケの成長譚として物語全体を眺めると、ラストの哀しみは筆舌に尽くしがたいものがあります。


○『カムイ伝』の原型

 白土三平の代表作といえばカムイ伝です。
 『カムイ伝』の特徴として際立っているのは、「領主 vs 百姓」の構図と、それに介入する「一匹狼たち」です。正助(百姓)・竜之進(領主)・カムイ(忍者)の3人がそれぞれの思惑を持ちつつ群像劇を展開していきますが、正助と竜之進は「領主 vs 百姓」の間で揺れる存在として、カムイはその対立に介入する「一匹狼」として登場します。その三者三様の努力と苦悩こそが『カムイ伝』の読み所でした。

 『カムイ伝』の前に執筆された『サスケ』には、『カムイ伝』の原型となるような要素が数多くあります。とりわけ、後半部分で農民たちが一揆を組んで領主に反抗する箇所の描写は『カムイ伝』でも同様のものが見られます。「領主 vs 百姓」の構図に、一匹狼であるサスケが報われぬ努力を重ねていくというストーリーも『カムイ伝』と同じです。
 ただ、『カムイ伝』にはあって『サスケ』には欠けている決定的な要素があって、それは「領主」と「百姓」の人間味です。『サスケ』では主人公のサスケとその周辺の忍者のみにスポットがあてられ、領主や百姓の思惑は深く掘り下げられていません。彼らは私たちが頭の中で思い浮かべているステレオタイプな領主像・百姓像を忠実になぞる行動しか取らず、『カムイ伝』の正助や竜之進が見せたような味わい深い人間性を欠いています。したがって、私たちはサスケの儚い努力には共感できても、物語全体の雰囲気に漬かりきることはできず、ただただサスケたち忍者の活躍に注目せざるをえません。

 『サスケ』の数年後に執筆が開始された『カムイ伝』では、そのような定型的な領主像・百姓像を打ち破るために、カムイのほかに2人の主人公が登場し、領主と百姓それぞれの世界がもつ背景と感情の揺れ動きを生き生きと描写しています。おもしろいのは、『サスケ』では忍者主体であった物語が、『カムイ伝』では百姓と領主の物語へと姿を変え、忍者たちは単なる脇役として物語の背後で蠢くのみになります。忍者同士のバトルというアクション性を抜け出し、封建的階層社会に対する批判的言説がクローズアップされています。その意味で、『サスケ』は白土三平の作風転換の過渡期の作品として、独特な雰囲気をもっているマンガです。