つやだしのレモン

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第60期王座戦

 王座戦中継サイト


 昨日行われた将棋の第60期王座戦第4局、渡辺明王座 vs 羽生善治二冠、中継サイトで観ていました。その感想。


千日手

 後手番の羽生二冠は第2局と同様に振り飛車を採用。第2局では角交換四間飛車でしたが、今回は2手目3二飛戦法佐藤康光王将がかつて指していたイメージがあります。羽生二冠は本局のために密かに研究していたのでしょうか。

 変則的な出だしとは打って変わって、局面は次第に古めかしい方向へ。戦型が振り飛車で先手後手がともに美濃、というのは久々に見た気が。渡辺王位の43手目▲4六角以降は6・7筋を争点とした小競り合いが続いていきますが、どうも後手の思惑が分かりづらく、この場面は先手やや指し易いと見ていました。57手目▲7五歩の局面では、「7五に拠点を作られて、後手は耐えられるのかな」なんて素人目に不安に思ったり。

 しかし、羽生二冠の68手目△6四金から74手目△7四歩で7筋の位を取り返し、△7二飛と左辺に駒を集める構想は見事でした。何かと狙われやすい飛車にヒモをつけるとともに、7筋からの攻めを見ています。結果的に7二飛はそれほど働かずに取られることになるのですが、羽生二冠らしい柔軟な発想に感心しました。84手目△3三桂も全く浮かばない手。この桂が最終的には6九に成ることになるんですから、羽生将棋は美しい。

 ただ、110手目△7六桂から次第に雲行きが怪しくなっていき、112手目△6九竜の場面は「あれ?これはですね……ウヒョー」な局面になっており、白熱した終盤戦が続きます。119手目に先手が▲6九銀と竜を取った場面では後手の攻め駒が少なくなり、ほんのりと先手逆転の気配。そんな中で飛び出したのが、122手目、歩頭に捨てる△6六銀。これが詰めろ逃れの詰めろで羽生マジック炸裂か!と思いきや、その後まさかの千日手。はっきりしたことは分かりませんが、△6六銀▲7八銀と上がって7七の桂を守っていれば先手の勝ちだったのではないか、と言われています。でも真偽のほどは不明なので、来月の将棋世界を待ちましょう。



○指し直し局

 夜の10時から始まった先後を入れ替えての指し直し局は、予想通り矢倉。指し直し局は持ち時間が少ないので、力戦系にはしづらいのでしょう。矢倉は第3局でも登場した戦型で、そのときは後手の渡辺王座が急戦を選択していましたが、今局ではオーソドックスな持久戦。定跡に沿って指し手が進んでいきます。

 76手目△4六歩がどうやら本局の岐路だったようで、そのあとは先手羽生二冠の攻め、後手渡辺王座の受けという展開が延々と続きます。3二に打った金が後手陣の駒をボロボロと剥がしていく間に、既に局面は先手勝勢へ。駒得を生かして羽生二冠が危なげなく寄せきりました。

 この2局を通しての印象。羽生二冠は見るからに好調で、持ち時間の少なくなってからの強さには驚かされます。一方の渡辺王座はあまり良いところがなく、「らしさ」が出ていなかったように思いました。渡辺将棋といえば「自陣が堅いことを生かして鋭く攻める」のが特徴でしたが、第3局〜第4局の千日手局・指し直し局の3局では囲いが薄く、らしくない展開が続いていました。今期の成績も芳しくなく、スランプの時期なのかもしれません。

 千日手局の終盤は手に汗握る熱戦で、中継サイトの更新をいまかいまかと待ってはドキドキするひと時でした。△6六銀を見たときの衝撃はしばらく忘れないでしょう。終盤のねじり合いは将棋の華ですね。