つやだしのレモン

読んだもの、見たものの感想を書く場所。

The Three-Eyed One

 手塚治虫 三つ目がとおる講談社


○概要

 手塚先生が『ブラック・ジャック』と同時期に連載していた漫画。
 「第三の眼」を持つ中学生・写楽保介と、その写楽に恋してしまった和登千代子が織り成すドタバタSFコメディ。

 内容的には、三つ目人が残した遺跡の謎を写楽が解いていくのがメインの展開。ですが、この作品の肝は、写楽と和登サンの魅力的なキャラクターにあります。三つ目にバンソウコウをした状態の写楽の無邪気さと、ボーイッシュな和登サンの大暴走を堪能しましょう。

 

写楽のギャップを堪能する漫画

 「あとがき」によると、この作品はシャーロック・ホームズを強く意識して描かれたそうです。写楽が探偵役となって古代の謎を解いていく、というのが作品全体のコンセプト。写楽保介は「シャーロック・ホームズ」から、和登サンは「ワトソン」からもじっているとのこと。手塚先生らしい抜群のネーミングセンスです。

 とはいっても、「古代の謎」は結構テキトーな上に、写楽の解き明かし方もワンパターンです。「アブドル ダムラル オムニス ノムニス ベル・エス ホリマク われとともに来たり われとともに滅ぶべし」という呪文を唱えて解決、っていうケースがほとんどです。この呪文さえ唱えておけば万事OK、全ての謎は氷解して真実が目の前に現れてくれます。

 したがって、作品の魅力はどちらかといえば「登場人物が繰り広げるドタバタ劇」のほうにあります。一人ひとりのキャラの魅力が素晴らしく、彼らがゴチャゴチャと動き回っているのを見るだけで幸せになれます。特に主人公の写楽と和登サンのコンビネーションが抜群。三つ目に張ったバンソーコーを取ると覚醒して暴れまわる写楽と、その写楽を上手に操る「ボクっ娘」和登サンは、手塚作品の中でも
屈指の名コンビ。バンソーコーがついているときの写楽から溢れ出る愛嬌に癒されます。

 私が個人的に気に入ったエピソードは「地下の都」編。バンソーコー状態の写楽が遺跡をひたすら掘り続ける理由に感動です。

 以下、印象に残ったセリフ。怪植物ボルボックが人間を滅ぼすために立ち上がったときのナレ。

「それははるかなむかし 自分の先祖をつくりあげた おせっかいな二本足の生物への 憤怒の姿勢だった」