つやだしのレモン

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They Live 印象と感想

 ゼイリブ (ジョン・カーペンター監督、1988年)


 以下、ネタバレ注意


○ホラーで有名なカーペンター監督のSF映画

 ゼイリブというタイトル、どういう意味だろうと思ったら、単に「They Live」をそのままカタカナにしただけ。「ゼイ・リブ」でも「ゼイリヴ」でもなくて、「ゼイリブ」なのが面白い。邦題をつけた人の「もうこれでいいや」という投げやり感が窺え知れます。

 ストーリーの大筋は「ひょんなことからグラサンをかけて世界を見たら、骸骨野郎どもが人間を騙しているのが分かった」。何を言っているのか自分でも分かりませんが、本当にこういう話です。人間世界に異星人が混じって暮らしている、というアイディア自体は、フィリップ・K・ディックの短編「ハンギング・ストレンジャー」を彷彿とさせます。

 ジョン・カーペンター監督といえば『ハロウィン』『遊星からの物体Xで有名ですが、この『ゼイリブ』もなかなかの秀作。安っぽいサングラス一つで世界がグルリと姿を変える、という奇想は厨二心を激しくくすぐります。

 主演の俳優がいやにムキムキマッチョだなと思って調べたら、プロレスラーの人なんですね。どうりで胸板がマグロのように厚いわけだ。途中で出てくる無駄に長い格闘シーンも、主役がプロレス出身であることを踏まえると監督のファンサービスなんだろうと納得。



○サングラス一つでこれだけ世界は楽しくなる

 テレビや雑誌などで、「学生時代に起業して、今では年商5億円」「株で儲けてポルシェを買った」「休日は副業に精を出して月収アップ」みたいな人たちが紹介されているのを見るたびに、こういう人たちの活力は凄いと思わされます。ストイックに富を追い求める人たちの姿を見ると、どうにも自己嫌悪に陥ってしまいます。資本主義社会にうまくアジャストして、金銭を稼ぐことを生きる目的として割り切るというのは一つの才能であり、努力の結果だと私は思います。

 しかし、この映画、そういうザ・資本主義な人々を「異星人」として断罪、虐殺していきます。しかも異星人は骸骨の如き容貌、眼は光を反射してギラギラと鈍く輝くその様は、条件反射的に嫌悪感を抱かせるほど。街頭のポスターや広告はサングラスを通して見れば「Obey」「Marry and Reproduce」「Submit」「Consume」「No Thoughts」などなど。最も面白かったのは、サングラス越しに紙幣を見ると「This is your God」と書かれていたこと。まさに。

 資本主義や物質主義を痛烈に批判した本作ですが、興行的にはまずまずの成績(1億3千万ドル)を収めています。こんな内容なのにお金はバッチリ稼いでいる、っていうのが一番グッとくる皮肉でした。さすがですアメリカ。