つやだしのレモン

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El aleph

 ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『エル・アレフ (平凡社) 


●印象と感想

 ホルヘスの短編集を読むのは『伝奇集』に次いで二作目。興味深い内容だったが、『伝奇集』に比べると衝撃や新鮮さはなかった。

 ボルヘスという作家は扱うテーマが特殊で、その新奇性と奇抜さが短編に不思議な味わいをもたらしている。永遠、無限、迷宮といったテーマはミステリアスで、読書体験に気品を与えてくれる。



●メモ

・「不死の人」
 不死の人間がいれば、その人は人類の歴史の全てを生み出しえる。「バベルの図書館」では無限に存在する本があらゆる可能性を秘めていたが、この短編はその主体を人間へと移し替えたもの。

・「神学者
 一つの議題を巡って激しく対立する二人の人間は、神から見ればたった一人の同じ人間にしか見えない。学問上の些末な問題に関していがみ合う両者は、競うようにして正反対の方向へと走っている二人の人間ではなく、同じ道を歩む同志である。人が誰かを嫌うとき、自分の欠点をその人のうちに見ている、という言葉があるが、その同族嫌悪とでもいうべき悪感情が、同じ道を歩む人間同士には芽生えるのだろう。

・「戦士と拉致された女の物語」
 拉致された女の物語が印象的。アルゼンチンのインディオに拉致され、その酋長の妻となって生活しているイギリス人女性の話。

・「アヴェロエスの探求」
 メタ物語。ボルヘスアヴェロエスという人物についての短編を書こうとしたが、その生涯はほとんど記録に残っておらず、作者のボルヘス自身がその存在を疑った時に、作品中のアヴェロエスの姿はその作品世界とともに消え失せてしまった。

・「アベンハカン、エル・ボハリー、自らの迷宮に死す」
 ほんのりと推理小説ボルヘス推理小説に大きな関心を寄せていたようで、チェスタトンのブラウン神父ものやエラリー・クイーンの国名シリーズを読んでいたようだ。さすが博識なだけあって手広い。