つやだしのレモン

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SnowPiercer

 『スノーピアサー』 (ポン・ジュノ監督、2014年)

 
 


●印象と感想

・SFアクション映画。元の邦題は『雪国列車』

・寒冷化で人類が死に絶えた地球を一台の列車が駆け巡る。その列車の乗客たちが生き残った数少ない人類。列車内には階級社会が存在し、先頭車両の人間たちが贅沢を享受する一方で、後尾の人間は奴隷に等しい生活を強制されている。
 主人公は後尾車両で暮らす男。隷属状態を脱するため、列車の先頭にあるエンジンを掌握することを画策する。以上が大まかなストーリー。

・TOHOシネマズ西新井で観ました。18:20開演で、来場者は私も含め5人。平日とはいえ少ない。




 以下ネタバレ。






ポン・ジュノらしさはどこへ?

 個人的に、「風景の抒情性」「説教臭くないレベルの程良い社会性」「ブラックなユーモア」ポン・ジュノ作品の特徴だと思います。『スノーピアサー』にはこの3つのどれもがありません。

 映画自体は面白いし、B級アクションとしては十分に楽しめます。アクションシーンなんて素晴らしい。手に汗握った。映画館のド迫力だと圧倒される。
 でも、そういう映画はハリウッドにいくらでもあるわけで。わざわざポン・ジュノが撮る必要がある題材なのか?というのが鑑賞後の第一印象。月並みなアクション映画だから、すぐに歴史に埋まってしまうでしょう。この程度の内容なら、マイケル・ベイピーター・ジャクソンで事足りる。

 私は殺人の追憶ポン・ジュノが観たかった。平凡な人々の哀しみを描いた映画が観たかった。アメリカ人俳優を起用するのだから、東洋的な空気感を出すのは難しいにしても、ここまでハリウッド然としていたのには肩透かしを食らいました。

 殺人の追憶母なる証明では、映画の全体を使って人物の内面を丹念に描いていたから物語が心に響きましたが、この映画はキャラの描き方が雑。列車の最後の扉を開ける前で、主人公がとってつけたように昔語りを始めたのにはガッカリです。ウィルフォードとの対話は喋り過ぎで、映画の薄っぺらさをさらに誇張していました。



BIOSHOCK風な世界観

 この映画のストーリーはPCゲームBIOSHOCKを意識しているのでしょうか。あちらは海底都市ラプチャーが舞台で、アンドリュー・ライアンという独裁者が全権を掌握していました。『スノーピアサー』の劇中には、子どもたちの教育用ビデオとしてウィルフォードを賛美する映像がありましたが、『BIOSHOCK』のライアン称賛のビデオにそっくり。映像のテイストがわざと時代遅れで、独裁制の薄ら寒さを感じさせます。

 正直なところ、物語の質や見せ方では圧倒的にBIOSHOCKの方が面白い。ところどころに散りばめられたブラックユーモアと、大胆なトリックは映画顔負けです。『スノーピアサー』は、雪で覆われた地球を失踪する列車という設定は抜群に面白いものの、その設定が上手く生かし切れていない感じ。ポン・ジュノ監督ならもっと楽しい映画にできたのにと、過度の期待をしてしまいます。