つやだしのレモン

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渡辺裕『サウンドとメディアの文化資源学』

サウンドとメディアの文化資源学: 境界線上の音楽

サウンドとメディアの文化資源学: 境界線上の音楽

 
○メモ

・音楽そのものではなく、音楽の周辺が研究対象。

・音楽という枠組みを作るもの、支えるものは何か?

・芸術は自立した一ジャンルではなく、他分野の影響のもとで成り立っている。



旧制高校の文化

旧制高校の寮歌についての研究が面白い。寮歌のイメージが一つの方向性のもとで恣意的に作成されたのだとする結論は興味深いし、旧制高校内の独自文化の存在に心惹かれる。旧制高校の学生らは、ドイツ文化に憧れて無理に難解な学問用語を使ったり、貧相な身なりで街を練り歩いて粗野な行動をとっていた。けれども、街の人たちは寛容であり、それは彼らが将来の日本を支えるエリートであることを知っていたからだ。戦後、普遍教育へと政府が舵を切ったことで、エリート養成学校としての旧制高校というイメージは過去のものとなり、それに合わせて旧制高校の寮文化も味が薄まっていった。

 そして、一つの文化資源が消えかかる時に、昔の時代が美化された形で懐古され、そのイメージが固定され、一つの独自な文化としてのありさまが生産されるというのがこの本のテーマとするところだ。だから、蛮カラ文化をそのままの当時の様子として受け入れることは差し控えなければならない。それでも、こういう話を聞くと、昔の学生たちの生活を色々に想像することができて楽しくなる。旧制高校を舞台にした小説とか映画があればぜひ見たい。