Mother
- 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
- 発売日: 2012/08/02
- メディア: DVD
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ネタバレ注意。
○印象と感想
・知恵遅れのトジュン(ウォンビン)と、そのトジュンを溺愛する母(キム・ヘジャ)の物語。
・トジュンの母は薬草売りで、裏芸として鍼もやっている。かつて生活が苦しかった頃、農薬を使って一家心中を図ったが失敗。トジュンは脳に障害が残り、母はそれを十字架として背負って生きていくこととなる。
知恵遅れの子を溺愛するのは、その原因に自分があるからで、子へ愛を注ぐことが何よりの贖罪だと考えている。
・わが子を信じる気丈な母親。妙なことにこだわるのが痛々しく、世間ずれしていることに気づこうとしない。弁護士と会う前に、手鏡を見ながら口紅を塗る場面が象徴的。
・結末で、ジョンパルという新たな被疑者が見つかり、トジュンは釈放される。主人公はジョンパルと面会するが、そのジョンパルはダウン症の男で、両親はいない。
○抒情性
・ポン・ジュノの映画は背景が美しい。冒頭、山間の草原で主人公が虚ろな目をして踊るのだが、それが見事に絵になっています。音楽も調和して、不思議と懐かしい気持ちになる。この場面だけで、充分にこの映画を観る価値があったと思えるほど。撮り方一つ一つが工夫されていて感心してしまう。
・灰色の薬草を鋏で切断している場面、バス停で立ちションするトジュンに主人公が薬を飲ませる場面などは、現実離れしたシーンなのに奇妙なほどリアリティがある。
・ジンテの釣具店の佇まいが雰囲気抜群。あれは撮影のために作ったのだろうか。それとも既存の施設を利用したのか。どっちにしても、あんだけ山奥で釣具店を開いても客なんて来ないだろうに。
○救いはないけど映画らしい
『殺人の追憶』では現実にあった連続殺人を元に、韓国の現代的な問題をユーモアとともに描いていました。生々しく痛みを伴うが、それでも救いのある物語です。登場人物はみんな馬鹿で間抜けだったけれど、その間抜けさがかえって愛せるキャラクターだった。
でも、『母なる証明』はとにかく救いがない。最後まで観終わったところで、なんだかとてもやるせない気持ちになります。母が息子のために奔走して、その結果がこれなのか。あまりに空しい。よくこんな映画を作ったものだ。
『殺人の追憶』だと、表面上の暴力の後ろに、いくらか人間らしさが感じられたので楽しく観れた。でも『母なる証明』にはそういう甘さはない。人間の底にある嫌らしい部分をしっかり映しています。たまらないほど苦い。
そういう意味ではとても映画らしい映画で、観る価値は充分にある。きれいにまとまることなく、悲劇が悲劇のまま終わる。私たちが映画を観るのは、日常では体験したくない苦みを味わいたいという気持ちがあるからだとすれば、ひたすら悲劇を描くこの映画は、映画としてとても紳士的です。
でも、私がこの映画を好きになれないのは、映画に対して登場人物の魅力や物語の華やかさを求めてしまうからなのでしょう。たいへん優れた映画なのだが、人間の底意地の悪さを見せつけられる気がして嫌になってしまう。自分の心の中の見せたくない部分を暴かれる気がして怖くなります。悲惨ではあったがどこか牧歌的だった『殺人の追憶』の方を好きだと思ってしまうのは、映画的な甘みを残してくれているから安心するのでしょう。それに比べて、『母なる証明』は苦すぎる。