つやだしのレモン

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残酷な夜

残酷な夜 (扶桑社ミステリー)

残酷な夜 (扶桑社ミステリー)

○印象とか感想とか

  • 「残酷な夜」というタイトルの安っぽさ。読み捨てられるペイパーバック作品だったらしいが、中味はドロリとしている。
  • ストーリーは理解できない箇所がいくつか。ドラッグに頼って書かれたのだろうか。主人公を操る「元締め」とは何者だろう。なぜ「元締め」をあれほどまで恐れるのだろう。その「元締め」の手先が自分を監視していると主人公は思い続けるのだが、読者はそれが主人公の妄想だろうと知っている。けれど、物語は読者のそんな推測を強引に裏切っていく。
  • ルーシーというヒロインは強烈だ。片足だけ成長不良で、大人なのに幼児の足をもっている。そのせいで、松葉杖に頼らなければどこにも行けない。
  • 最後の短章の連続にはめまいがする。急に別の小説に変わったかのようだ。この箇所は何度か読み返した。最後のセリフが素晴らしい。


○メモ

  • ロングアイランド鉄道の小さな駅を抜け、外に立って、ピアデールのメインストリートを眺めた。長さ四ブロックほどの道路が、むさ苦しい町を半分ずつに区切っている。通りのどん詰まりが教員養成大学だった。十エーカーかそこらの手入れの悪いキャンパスに、赤レンガの建物が半ダースほど散らばっている。一番高い建物が三階建てだった。どれもひどくみすぼらしい。(5)
  • おれは「わかりました」だったかなんだったか、とにかくその程度に気の利いた台詞を吐いた。(106)
  • ロングアイランド鉄道は、その日はいつになく正確に運行していて、わずか一時間遅れでニューヨークに到着した。(124)
  • 彼女はしゃべるのをやめた。おれに髪の毛をつかまれ、風呂から引きずり出されたのだ。彼女は抵抗しなかった。ゆっくりと立ち上がった。首が、胸が、湯から出てきて、泡がいやいやという様子でゆっくりと滑り落ちていった。(148)