つやだしのレモン

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特捜部Q 檻の中の女

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

○印象と感想

  • デンマーク発の警察小説。新設の特捜部が未解決事件を捜査。
  • 落ち着いた飾らない文体。とにかく読みやすい。皮肉っぽい言い回しにニヤニヤする。
  • 登場人物のキャラが立ちまくり。

○アンチ・ハードボイルド

 最近、「アンチ・ハードボイルド」とでも呼ぶべき作品が増えている印象をもつ。冴えない中年の男を主人公に置いて、平凡で代わり映えのしない退屈な毎日を描くような小説が多い。ミステリでは特にそれが顕著で、「タフで優しい二枚目の男」が登場するような作品はめっきり見なくなった気がする。個人的には、ハードボイルド小説のスカした感じが嫌いだから、こういう骨のある小説がたくさん読めるのは嬉しい。



コペンハーゲン警察に新設された「特捜部Q」

 『特捜部Q』の主人公はカール・マークという名前の警部補。年齢は40歳前後、頭皮は禿げ、腹の周りに贅肉がつき、着古した服で身を固めている。別居中の妻は年下の男と不倫中だが、離婚には踏み切れず、金づるとしていいように使われている。先日の事件では自らの不注意で部下二人を失い、仕事に対する情熱さえ失いかけている。まさに甲斐性なしのダメ中年で、まるで取り柄がないようにみえるのだが、これが不思議と愛せてしまう。

 R・D・ウィングフィールドフロスト警部シリーズが人気なのと同じで、どこにでもいそうな愚直な人間が主役を張っているから楽しめるのだろう。脇役もいい味を出している。主人公のカールにはアサドという助手がいるのだが、この男は中東からの移民で、警察署の小部屋にアラーのお祈りゾーンを作るような奴だ。刑事が多国籍というのは斬新で、その設定の妙だけで物語に引き込まれる。


 
デンマーク版「フロスト警部

 フロスト警部シリーズの影響は明白だ。主人公の冴えない刑事、皮肉の利いたセリフ、複数の事件が同時並行的に絡み合う展開などなど。犯罪を予感させるようなプロローグが冒頭におかれていて、なおかつ小説の最後にちょっぴり感動的な締めを用意しているところまでソックリだ。

 とはいえ、きっちりと差別化はできていて、ミステリとしての完成度は高い。読んでいると時間を忘れてしまうほど。フロスト警部シリーズが好きな人ならば是非。