つやだしのレモン

読んだもの、見たものの感想を書く場所。

特捜部Q キジ殺し

特捜部Q ―キジ殺し― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

特捜部Q ―キジ殺し― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

●作品メモ

  • デンマーク発のミステリー『特捜部Q』シリーズの第2作。ハゲデブ中年刑事カール・マークとその助手のイスラム教徒アサドが、未解決事件の謎に挑む。
  • 「ローセ・クヌスン」という新キャラが登場。特捜部Qに配属された女秘書で、図々しい上に恩着せがましい。でも仕事はよく出来る。
  • カールの元同僚で、現在は病院で寝たきり状態のハーディ。この本ではそのハーディに関して新展開が。


●青年実業家への皮肉な目

 第一作の『特捜部Q 檻の中の女』に劣らずの名作。カールとアサドのコンビは今作でも健在で、それにローセという女秘書が加わって面白さが増している。

 若き実業家に対する痛烈な皮肉が満載。他人を蹴落としてでも成功しようとする浅ましい人間たちが生々しく描かれる。日本人からするとやや分かりにくいが、学校の「寄宿舎」学生寮)という制度が生む同胞意識・学閥主義が一つの裏テーマになっている。

 以下、印象的なセリフの抜粋。

「彼は父親から合格祝いにビュイック・リーガル・リミテッドを贈られました。あのクーペタイプのやつです。ご存知でしょう」
 カールはうなずいておいた。ビュイックが車だということくらいは知っている。 (371)

「俺の人相をきいてきたはずだ。なんて答えた? 言ってみろ」
 ローセの頬に背信のえくぼが現われた。
「茶色の革ベルトをしていて、サイズ四十五の黒の履き古したどた靴を履いた男性なら、ほぼ間違いないって言ったんです。それに、頭にお尻みたいな形のはげがあったら、疑う余地はないって」
 おまえには慈悲というものがないのか。カールは髪を後ろになでつけた。 (524)

「違っているとおっしゃいましたが、みんなそれぞれ違っていました。すばらしい若者たちです。あれ以来、彼らが歩んできた道がその証拠ですよ。そう思いませんか?」
「いやあ、それはどうでしょう。ひとりは自分の猟銃で脚を撃ち、ひとりは女性の顔や体にボトックスやシリコンを詰め込んで生計を立て、ひとりは栄養不足でふらふらの若い娘にギラギラのスポットライトを当てて歩かせ、ひとりは刑務所暮らしで、ひとりは無知な少額預金者を犠牲にして金持ちをさらに金持ちにする専門家で、最後のひとりは十一年来、路上生活をしています。ですから、あなたがおっしゃっている意味がよくわかりません」 (526)