つやだしのレモン

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12色物語

12色物語 (講談社漫画文庫)

12色物語 (講談社漫画文庫)

●絵を描く詩人

 坂口尚さんの漫画にはうっとりする。その作品は一つ一つが美しい芸術のようだ。人生の機微をすくって漫画にするのが上手く、その表現力が何より素晴らしい。一つ一つのコマの構図や見せ方が抜群に上手いし、コマとコマの繋がりも周到に計算されていて、一切よどむことなく物語が流れていく。

 『12色物語』に出てくるのは弱い人たちだ。精一杯にしたたかに毎日を生きる人々を愛情込めて描いている。ワーズワース宮沢賢治が文字を使って表現したことを、坂口さんは絵で表してみせる。「万年筆」のラストなんて絶品だ。あまりの見事さにため息が出てしまう。

 坂口さんは『無限風船』という絵本を描いていて、これも素晴らしい。もし子どもに一冊プレゼントするとしたら間違いなくこの本を贈りたい。でもAmazonでは中古本の底値が4500円……。どこか復刊してくれ。