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ブラックブック

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 以下、思いっ切りネタバレ。Spoiler!

●あらすじ 〜 一人の売女の物語

 第2次世界大戦が終りを迎えつつある頃、オランダのあるところに、ラヘル・シュタインという名前の尻軽女がいました。彼女はいわゆる、「誰にでもヤラせてくれる女」で、バーやキャバレーで歌を歌うことで生計を立てていました。

 ラヘルはユダヤ人で、オランダを占領しているドイツ軍から隠れて生活をしていました。彼女はその美貌が売りで、男たちに身体を売り歩きながら、何とかここまで難を逃れてきました。ただ、ラヘルは身体が美しい分、頭に栄養が回らなかったのでしょうか、悪人の言うことをホイホイと信じて酷い目にばかり遭っています。

 ドイツ軍に隠れ家を追われたラヘルは、河を下って南オランダへ出る計画に参加します。当時、オランダの南部はすでにナチスから解放されていたので、南に行けばユダヤ人は自由な生活を手にすることができるのでした。

 しかし、その計画は、実はナチスが仕組んだ罠でした。強欲なナチス将校が率いる小隊の待ち伏せにあい、ラヘル以外の乗客は皆殺しにされてしまいます。その中には、ラヘルの家族も含まれていました。大量の銃弾を「奇跡的」にかわしてラヘルは川へ飛び込み、なんとか危機を脱します。

 命からがら逃げ出したラヘルは、オランダ国内に潜伏していたレジスタンスのもとへ行きます。レジスタンスは反ナチスの活動をしている人々で、その構成員の出身は様々。共産党員もいれば、敬虔なキリスト教徒もいました。その中で、ラヘルはハンス・アッカーマンという医者に近づき、その医者に股を開きます。ハンスはレジスタンスの中でも頼りにされていた人間なので、その男の情婦に収まって、デカイ顔をしようという魂胆だったのでしょうね。

 その後、ラヘルは、その生粋の尻軽気質を買われて、ドイツ軍へスパイとして送り込まれることとなります。彼女は、ムンツェ大尉という情報将校に接触し、その美貌で彼を虜にして、すかさずセックスへと持ち込みます。ムンツェは、情報将校としてそれまで多くのレジスタンスメンバーやユダヤ人を処刑してきた人間でした。しかし、ドイツ軍の敗戦が濃厚となると、終戦後の保身のために、レジスタンスの人間と接触して、実は「良心的なドイツ人」であることをアピールしようとしていました。

 そんなムンツェは、ラヘルからすれば絶対的な「敵」であり「巨悪」の一部であるはずですが、体を許したことで、なぜだか不思議と、彼女はムンツェに惹かれていきます。自分の同胞や家族がナチスに殺されたことなんてすっかり忘れて、ムンツェを本当に愛するようになります。そうです、ラヘルは生粋の売女なのです。「一度寝た相手は好きになってしまう」という尻軽属性をバッチリ備えていたのでした。あるいは、ムンツェとのセックスがよっぽど気持ちよかったのでしょうか。

 ムンツェ大尉に取り入ったラヘルは、ドイツ軍の建物内に盗聴器を仕掛けることに成功します。盗聴器からの情報でドイツ軍の内情を知ったレジスタンスは、ドイツ軍に捕えられていた仲間を救おうと、救出作戦を決行します。しかし、その作戦はすでにドイツ軍に漏れいていたようで、監獄内でドイツ軍に待ち伏せされて、一網打尽となります。なんとか逃げ延びたのは、ハンスだけでした。

 その後、なんやかんやあって終戦となりますが、ラヘルはなぜかドイツ軍に協力したと誤解されていて、ムンツェ大尉と一緒に逃げ回ることになります。ユダヤ人がナチスの将校と一緒に逃亡するなんて、不思議ですね。これも、彼女の生粋の売女体質のなせる業だと言えましょう。

 さらに、なんやかんやあってムンツェは捕えられて死刑となり、ラヘルはハンス・アッカーマンという医者に引き取られることになります。ハンスはレジスタンスの中心メンバーで、終戦後は国を救った英雄として讃えられていましたが、実は、彼こそがレジスタンスの同胞をナチスに売っていた張本人でした。え? じゃあ映画の最初の方でハンスがドイツ軍兵士を銃で殺してたのは何? という疑問が湧きますが、そういう細かいことはバーホーベン監督は気にしません。この映画監督はとにかく楽しげな映画を作れればそれで満足なのですから。

 こうして、ラヘルは信頼する人すべてに裏切られ、失意のうちにオランダを去ります。彼女が向かったのは、イスラエルでした。自分の身体を売ってこの世を渡り歩いてきた彼女にとって、イスラエルという土地は初めての安住の地でした。

 信頼する人にことごとく裏切られていくという彼女の人生は、まさしく「売女」である彼女の生涯としてふさわしいものでした。セックスをすることでしか生きていけない彼女にとって大事なのは、相手の人格ではなく、どこに自分の顔をうずめるかなのですから。こうして、一人の尻軽女は、イスラエルという新たな戦場で、自分を満足させてくれる男を探すのでした。