つやだしのレモン

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『Shadowrun: Dragonfall』 前作にはなかった、練り込まれた物語

Shadowrun: Dragonfall』のレビュー。

●プレイデータ

  • 価格: 740円 (定価の50%オフで購入)
  • 難易度設定: Hard (戦闘の難易度は低め)
  • プレイ時間: 26時間 でクリア
  • 備考:このゲーム、元々は“Shadowrun Returns”のDLCだった。だが、DLCとしては破格のボリュームであったため、独立した作品として発売されることになった。その際、いくつか新要素が追加されたため、“Director's Cut”という副題がついている。


●メモ

Good!

  • ストーリーが面白い。選択肢が多く、物語にのめり込める
  • チームメンバーの1人ひとりが魅力的
  • 細部まで丁寧に描かれたグラフィック

Bad!

  • 前作に引き続き、戦略性に乏しい戦闘システム
  • 無駄に文章量が多い

 以下ネタバレ。このゲーム独自の単語については、最後のTipsにまとめてある。



●あらすじ

 舞台はドイツのベルリン、2054年。1つの「ラン」から物語は始まる。

 ハーフェルド邸(Harfeld Manor)という古風な屋敷に忍び込み、その地下に隠されているデータを奪いとる。それが今回のランの目的で、馴染みのない客からの依頼だ。

 ランに参加するチームメンバーは5人。チームのリーダーを務めるのは、モニカ・シェファー(Monika Schafer, 女・人間・デッカー)。彼女は超一流のデッカーであり、クロイツバザー(Kreuzbasar)という自治都市を陰で支える人物でもある。今回のランは、モニカが依頼人と直接交渉をして請け負ったもの。


 ▲メンバーに指示を出すモニカ

 他のメンバーは、ディートリッヒ(Dietrich, 男・人間、顔全体に刺青を彫っている)、グローリー(Glory, 女・人間、全身を義体化している、近接戦闘が得意)、アイガー(Eiger, 女・トロール、銃の扱いに長ける)、そして主人公である。

 古屋敷に侵入し、データを奪い、帰るだけ。リーダーのモニカは、こんなのはミルクラン(a milk run, 簡単に片づけられるランのこと)だと言った。けれども、「この世にミルクランなどない」というシャドウランナーの格言通り、チームには非情な現実が待っていた。

 屋敷の地下への扉を開けるため、モニカは警備システムにハッキングを試みる。だが、警備システムのAIは予想外に強力で、なんとモニカは脳を焼き切られてしまう。モニカはこと切れる直前、チームのメンバーに向かって、"Feurscwinge"という謎の言葉を呟く。


 ▲脳を焼かれたモニカ

 チームの絶対的なリーダーであったモニカを失ったメンバーは、衝撃と動揺に包まれながらも、依頼を完遂するため、屋敷の地下へ向かう。すると彼らは、それまでの古風な内装とは真逆の、マシンで埋め尽くされた謎の研究施設へと足を踏み入れていた。古風な屋敷は、地下にあるこの極秘の研究施設を世間の目から隠すためのカモフラージュだったのだ。

 研究施設を守る兵士たちの銃弾を避けつつ、命からがら逃げかえったメンバーたちは、モニカの死に報いるために動き出す。モニカに今回のランを依頼したのは、グリーン・ウィンターズ(Green Winters)というデブの中年男で、ランナーの世界では評判の悪い人物だった。詳しい話を聞くために、チームはウィンターズの元へ向かう。だが、彼らがアパートの一室で見つけたのは、モニカと同じように頭を焼き切られ、冷たくなって床に転がっているウィンターズの死体だった……。

 ウィンターズの残したデータを精査したチームメンバーは、この謎の背後に、"Feurscwinge"の存在があることを突き止める。"Feurscwinge"はドイツ語で、英語に直せば"Firewing"。それはかつて、世界を恐怖に陥れた竜の名前だった。チームは"Feurscwinge"の謎を明らかにするため、ベルリンの闇夜へ飛び出していく。




●キャラクター

 主人公の「性別」「種族」「特性」は、一番最初に設定できる。私は「男・人間・メイジ」で作成。メイジは火力が高く、補助魔法も充実しているので戦闘で使いやすかった。

 他に勧める特性があるとすれば「デッカー」。デッカーはチームに一人いると非常に便利だが、初期メンバーにはいない(というか、死んだモニカがデッカーだった)。なので、主人公がデッカーになれば色々と楽。一応、ブリッツ(Blitz)というデッカーがチームに途中参加するが、あくまでもサブキャラであり、初期メンバーほど扱いは大きくない。常に初期メンバーでチームを組みたい場合は、主人公をデッカーにするのがベストの選択だと思う。

 以下、チームのメンバーについての雑感。

  • アイガー (Eiger)

 
 頼りになる女トロール。男に見えるけど女。別名メスゴリラ。元はKSK(ドイツ陸軍)に所属していたが、事情により除隊し、シャドウランナーとして活動。モニカとはKSK時代からの仲で、絶対的な信頼関係があった。

 戦闘では軸となる存在。ショットガンとスナイパーライフルが得意で、近距離にも遠距離にも対応可能。



  • グローリー (Grory)

 
 全身を義体化した女性。闇が深め。禍々しいオーラを出していて、話しかけても返答はそっけない。

 戦闘では近接が得意。ただ命中率が低く、HPもそれほど高くはないので、正直いって頼りにならない。



  • ディートリッヒ (Dietrich)

 
 ベテランのシャーマン。スキンヘッドで、顔と頭に刺青を入れている。見た目はヤバイ人だが、話すと普通のおっさん。元々はメタルバンドをやっていた。

 戦闘では主に仲間の補助。私は主人公をメイジにしたため、このキャラをランのメンバーから外すことが多かった。



  • ブリッツ (Blitz)

 
 途中からチームに参加するデッカー。初期メンバーに比べると会話への参加率が低い。でも私は主人公をデッカーにしなかったので、ブリッツを常にランには参加させていた。

 デッカーなので、戦闘面での貢献はほとんど期待できない。しかし、コンピュータや警備システムにハッキングすることで、戦闘を有利に展開させることが可能。戦闘以外での活躍場面も多いので、主人公がデッカーでない限りは必須の人材。



  • ダンテ(Dante)

 
 犬。モニカが飼っていたペット。主人公のあとをついてくる。ただの犬かと思いきや、物語終盤でヘルハウンドへ進化し、戦力としてチームに参加。元々、犬とヘルハウンドの雑種だったらしく、戦火にさらされたことによってヘルハウンドとしての能力が開花した。モニカが魔術師にわざわざ依頼して手に入れた希少種らしい。

 戦闘では大活躍。噛みつき攻撃がメインだが、これがかなり強い。敵のAP(アクションポイント)を削る攻撃をするので、攻撃された相手は行動不可になる。攻撃の命中率がやや低いのが難点だが、メイジorシャーマンのAimという魔法で命中率を上げれば隙がなくなる。後半の戦闘の主役はダンテだった。



 私のチーム編成は以下。

 物語の終盤までは、「主人公(メイジ)・アイガー・グローリー・ブリッツ」という編成。デッカーのブリッツを入れたかったので、初期メンバーを一人外す必要があり、主人公(メイジ)と能力が被っているディートリッヒを外した。

 ダンテ加入後は、「主人公(メイジ)・アイガー・ブリッツ・ダンテ」という編成。グローリーの代わりにダンテを使った。どっちも近接戦闘系なので似たようなものだが、ダンテの方がやや火力は高い気がする。




●戦闘システム

  • ターン制ストラテジー

 ほぼ前作と同様。変わったところといえば、武器が増えた、魔法が増えたぐらい。

  • 敵AIがバカすぎ

 「なんでそんな行動するの?」って思わずつぶやいてしまうような不可解な動きが多い。そのせいで戦闘に刺激がなく、こちらの一方的な勝利で終わってしまう戦闘が幾つかあった。

  • 攻撃の命中率が低すぎ

 攻撃がとにかく当たらない。ヒット確率60%の攻撃が4回連続ではずれても驚かないレベルの当たらなさ。

 たぶん、表示される数字以上に確率は低く設定されている。フォーラムを見ても、命中率の低さに不満を漏らしている書き込みを見かけた。攻撃が当たらないことへのイライラに耐えられない人はプレイしない方がよい。

 終盤は、戦闘が始まるとすぐに主人公(メイジ)がAimの魔法を他のキャラにかけるようにしていた。そうしないと本当に攻撃が当たらない。至近距離からショットガンを撃っても当たらないし、相手が行動不能状態になっていても当たらない。

 とはいえ、敵の攻撃の命中率も同じように低いので、敵の攻撃も当たらないというメリットもある。「室内で銃を撃ちあっているのに、誰もかすり傷一つ負っていない」という不思議な状況が味わえる。




●まとめ

 前作(Shadowrun Returns)に比べると、物語はずっと洗練されている。選択肢が数多く提示され、何を選択するかによって展開が変わる。選択肢は悩ましいものが多く、思い通りの展開にはならないことがほとんど。

 そして前作との決定的な違いは、チームのメンバーたちにしっかりと個性が与えられていること。このおかげで、「チームで戦っている」という実感が味わえる。これは前作に致命的に欠けていた要素。やや過剰にキャラ付けがなされているようにも思う箇所はあったものの、各メンバーのセリフはユーモアと皮肉にあふれており、修羅場をともにくぐり抜けてきた雰囲気が感じられてゾクゾクした。

 ストーリーは、終盤の展開が熱い。主人公が住む街が攻撃されて、チームのコーディネーターであったポール・アムゼル(Paul Amsel)が射殺され、チームも離散。だが、そこから何とか立て直しを図り、チームが再結集して、謎の核心に迫っていく。という展開は、王道といえば王道なのだが、そこまでの蓄積がある分、ズシリとくるものがあった。

 ということで、前作からはゲーム的にだいぶ進化しており、ストーリーの面白さとキャラクターの魅力はグンと増している。戦闘システムの作り込みが甘いことと、文字量が無駄に多いことが不満といえば不満。点数をつければ85/100。プレイしていて楽しかった。




●Tips

  • 舞台がドイツのベルリンなので、ゲーム中の会話にドイツ語が混じることがある。
  • ラン(run):闇の仕事のこと。警察では扱えないような仕事を行う。研究施設に潜入してデータを盗んだり、盗聴器を仕掛けたり、要人を誘拐したり。ランが成功すれば、依頼主から報酬が払われる。その多くは、表立ってはできないような仕事であるため、シャドウランShadowrun)と言われることがある。ランを行う者はシャドウランナー(Shadowrunner)と呼ばれ、表社会からはみ出した人間が多い。
  • デッカー(Decker):電脳世界にアクセスしてハッキングする人。"Hacker"とは違う。"Hacker"はコンピュータをハッキングする人の呼称で、Shadowrunの世界においては「過去の遺物」という扱いらしい。とはいえ、デッカーもコンピュータにハッキングはする。
  • リガー(Rigger):ドローンを操る人。ドローンとはAI内蔵の攻撃マシンで、攻殻機動隊でいうところの「タチコマ」に該当する。だいたいのデッカーはドローンも操れるので、リガーでもある。例えばブリッツはそう。
  • クロイツバザー(Kreuzbasar):主人公たちが住む街。自治都市である。シャドウランの世界では、巨大企業が大きな力をもっており、国家を上回る権力を持っている。ドイツの大都市は、かつて企業によって支配されていたが、市民の抵抗活動によって自治権は回復された。クロイツバザーもそのような自治都市の一つで、市民たちの自治によって統治されている。だが、Dragonfall事件の数年後、企業が再び勢力を伸ばし、自治都市は自治権を剥奪されることとなる。
  • ヒューマニス・ポリクラブ(Humanis Policlub):ヘイトグループ。人間中心主義を掲げ、メタヒューマン(metahuman, 人間以外の種族のこと。エルフ・ドワーフ・オーク・トロール)を嫌悪している。メタヒューマンを武力によって排除する活動を行う。
  • 浄火の使徒(Disciples of Cleansing Fire):"Firewing"を崇拝するカルト集団。SOX(ドイツとフランスの国境にある汚染された地域)で活動している。
  • アリス(Alice):凄腕のデッカー。主人公に貴重な情報を提供してくれる。ただし、ギャラは破格。寂れた駅の情報端末から接触できる。