つやだしのレモン

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今敏『OPUS 上・下』(徳間書店、2011年)

OPUS(オーパス)上(リュウコミックス) [コミック]

OPUS(オーパス)上(リュウコミックス) [コミック]

●作品メモ

  • 学研の『コミックガイズ』という雑誌に連載されていたが、雑誌の休刊によって未完成で終わった作品。今さんの没後、最終話の原稿が発見され、それを収録して単行本化された。
  • 「メタで遊ぶ」作品なので、マジックを見るような楽しさがある。絵はうまいし、漫画という形式を生かした工夫が随所にあって面白い。ただ、形式面で遊び過ぎているせいで、キャラクターの性格がどうしても無機質に感じられてしまって、物語を楽しむような楽しみはない。本当に、マジックを見ている感じに近い。今敏さんが監督を務めた『千年女優』にも、これと同じような印象をもったし、ピンチョンの『競売ナンバー』を読んだ時も同じだった。とても楽しいんだけれども、なんか物足りなさを感じる。クロスワードパズルを解いたあとの空しさにも似ている。
  • そんな無機質な物語だが、最終話だけ、人間臭さが滲み出ている。雑誌の休刊で漫画が実質的に打ち切りとなり、作者=今敏がやる気をなくしてふて腐れている場面が描かれているのだが、そこで作者が本音をぶちまけて暴言を吐いているシーンが、ひじょうに人間味に溢れている。このような、人間の少し嫌な部分が描かれていると、グッとリアリティが増して、キャラがキャラらしくなっている。全部を放り投げて強引なラストだけれど、この終わり方はこの作品の終わり方としてはベストだと思う。