つやだしのレモン

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『Devilman crybaby』 食品サンプルのようなアニメ

Netflixで『Devilman crybaby』を見る。『デビルマン』の現代版リメイク。

その感想・批評。ネタバレあり。

 

 

 

【好きなところ】

・テンポがよくスピード感がある

 今どきのアニメらしく、リズムがあってスピード感があり、見ていて純粋に楽しい。

 湯浅監督は『マインドゲーム』で有名な人ですが、『マインドゲーム』同様に、独特なトリップ感のある映像が『crybaby』でも楽しめる。シンプルな絵だけどすっきりとしていて美しく、動きが豊富で見ていて魅了される。

 ただし、スピード感があるのは前半まで。後半はシリアスな展開に移行するので、流れは停滞する。

 

・魅力的なシーンが豊富

 不動明がアモンに憑依されるシーンは、このアニメのいわば「つかみ」だが、その表現は抜群のかっこよさ。あそこで心を鷲掴みにされて、10話を一気に見てしまった。

 他にも、ラッパーの男の子がミーコにラップで気持ちを伝える場面、ラストのモノクロの戦闘シーンの中でサイコジェニーが虹色の超音波を放つ場面など、アニメとして魅力的な場面はいっぱいあった。

 

 

【嫌いなところ】

・人物造形が浅い

 キャラクターの造形が浅いので、物語は回を重ねるごとに失速していく。

 了は明への好意とサタンとしての使命の間で揺れ動いていて、その葛藤が原作の魅力のひとつだった(サタンなのに人間味があるのがよかった)のに、このアニメではひたすらサタンとして暴君的な振る舞いしかしないこと。カメラマンの長崎を平然と殺したり、天才ランナーの幸田をハメてテレビの前でデビル化させたり、「現状に不満をもつ人間こそが悪魔だ」とテレビで言ったり、やってることは総じて鬼畜の所業。第10話の最後でちょろっと明の死を悼むんだけど、そこまでの行動と整合性がないので「なんで?」となる。君はさんざん明を裏切るような行動をしてきた男の涙に、どうすれば共感できるのか? 了はただただ「理解できない」存在でしかない。

 ヒロインの美樹もまた、「理解できない」存在である。原作の美樹は「男まさりのタフな女の子」だったが、このアニメでは「容姿端麗で純朴な女の子」に改変されている。美樹は明が悪魔であることを知ってもすんなりと受け入れるし、明が悪魔ではなくデビルマンであることをネットで真摯に訴えたりする。まさに聖人君子。あまりにも聖人君子すぎて、むしろ人間味がない。こいつ本当に人間か?

 よく考えてみよう。いくら自分の家族だからといって、悪魔化した人間をはいそうですかと受け入れられるか? 最初はとにかくその事実に驚いて、でも明は家族でもあり、信頼する相手であるから、葛藤するのが人間だろう。不安と信頼との間でもがき苦しむのが人間だろう。明はデビルマンとしての自分の存在に不安をもつが、それと同じくらいに、美樹も明との付き合い方で不安を抱えていいはずで、でもどうにかして不安を乗り越えて信頼に至るからこそ、美樹のパーソナリティも見えてくるだろう。特に今は、レイシズムやマイノリティ差別が取り沙汰されるのだから、そうした「自分とは違うもの」といかに出会い、いかに互いに受け入れていくのかは、原作以上にフォーカスされてもいいだろう。

 しかしアニメでは上記の通り、美樹はあっさりとパスする。しかもそのあとにネットでデビルマンの広報活動までしてやがる。こいつは菩薩か、はたまた天使か。友達のミーコが「美樹に嫉妬する」形で個性を出す一方で、美樹自身は「聖人」のオーラで完全武装し、あまりにも純白でつかみどころのない、理解を超越した存在になっている。

  キャラ描写が浅くても、物語そのものに力があれば問題はない。でも、このアニメは明確に、「自分とは異質なもの」と分かり合うことをテーマにしている。明が暴徒に語りかけて、分かり合おうとする場面に象徴されるように。だからこそ、キーとなるキャラクターの理解できなさ、分からなさは、そんな物語の核を虚しいものにしてしまう。このアニメの後半がはっきりと失速しているのはこのキャラの「分からなさ」のためだ。

 

 ・ファッションとしてのエロ

 女性の描き方には大いに不満あり。性の対象としての女性像が強すぎる。美樹はカメラマン長崎につきまとわれてヌードを撮られるし、豹変した明にクラスメイトの女子はバカっぽくキャーキャー言うし、ミーコはカメラマンにレイプされたのにその体験を引きずらずにケロリとしているし、悪魔シレーヌはアモンとセックスしたすぎてやたらとストリップするし、了の秘書は無意味にオッパイさらすし。

 とはいえ、こういう性的描写に何か意味があれば納得もできる。でもそういう意図らしいものは特に見当たらず。単に「エロ」として見せているだけ。思想も社会性もない。過激というレッテルを安易にまといたいがためのエロ。ファッションとしてのエロ。

 特に気持ち悪かったのは、ミーコの描き方。カメラマンにレイプされたあと、ミーコは自宅の部屋でなぜかオナニーする。エロゲーかよ。ああいう場面を平気で作れてしまう製作者のことを心底軽蔑する。その後、ミーコはデビルマン化するけど、レイプ体験を精算するような場面は皆無。10代女子にとってはレイプ体験など簡単に消化できるといわんばかり。上の「キャラクターの分からなさ」に関連することだが、エロと人物描写とがつながっていないのだ。単に映像を賑やかにするためだけのエロ要素にすぎず、人物造形に何も貢献していない。

 リメイクなのに、原作の永井豪の悪いところをそっくりそのまま引きずってどうすんの? むしろ、ヒロインの美樹の性格が「不良に喧嘩をふっかけるスケバン」タイプから「純朴で汚れを知らない乙女」タイプに変更されているところを見るに、原作から後退しているとすらいえる。

 古い作品を現代版としてリメイクし、全世界に向けて公開するのであれば、エロ描写に意味をもたせる必要は絶対にあるだろう。たしかに、永井豪の原作が発表された時代であれば、タブー視されていたエロを大胆に表現するということに意味はあっただろうけれど、現代で同じことを繰り返したら、それは単にただの疑似AV。何の社会的メッセージも物語性もないファッションエロを「過激」だと思っているのなら、それは社会の動きに適応できていない無神経さでしかない。

 

 

【総評】

  • 明がアモンに憑依される場面を代表に、滑り出しが素晴らしいアニメ。第1話を見たときは本当に魅了された。アニメとしての表現はすごく凝っていて、印象に残る場面はいっぱいあった。

 

  • でも物語としてはダメだろう。非常に悪意のある言い方をすれば、「レストランのショーウィンドーに飾られた食品サンプル」のようなアニメ。見た目はきれいだし食欲をそそるけど、噛めもしなければ味もしない。