つやだしのレモン

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マーティン・クルーズ・スミス『ポーラー・スター』 ソ連版『蟹工船』

ポーラー・スター (新潮文庫)

ポーラー・スター (新潮文庫)


 『ゴーリキー・パーク』の続編。ソ連の元捜査官アルカージ・レンコが、北洋漁船ポーラー・スター号の加工船員として再登場。かつての捜査官の零落っぷりの悲惨さが全編から滲み出す。レンコのハードボイルドぶりは『ゴーリキー』と変わらず。

 まさにソ連版『蟹工船』。とりわけ冒頭の、釣り上げた魚を専用の器具で加工する場面の雰囲気は似ている。ただ面白い対照として、『ポーラー・スター』では共産主義が船員を監視・束縛しているのに対し、『蟹工船』では資本主義が船を牛耳っている。でも上部構造はまるで違うというのに、この2つの船の内実は恐ろしいほどによく似ている。なんという皮肉。

 あと、これは『ゴーリキー・パーク』でも気になったのだが、なぜこの作家はセックスの描写で挿入場面をことさらに書きたがるのか。「それから彼は彼女のなかに入った」って。読んでいるこっちが恥ずかしいような文章。書かなくていいから。