つやだしのレモン

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ディック『ザップ・ガン』 期待通りのB級SF

ザップ・ガン (創元SF文庫)

ザップ・ガン (創元SF文庫)


 たいそうB級臭のするタイトルだが、その期待を一ミリも裏切らない、まさに伝統のB級SF。異星人が地球に攻めてきたから、そいつらを倒すためにスーパー究極兵器「ザップ・ガン」を作ろうぜ、っていう話。B級SFどころか、小学生が授業中に暇つぶしで考えそうなストーリーである。

 巻末の「ディック、自作を語る」において、ディックは本作について以下のような評価を下している。

 「いつも最高のものを書こうと心がけているんだが、才能に火をつけてくれる聖なる炎が燃え上がらない場合もある。そうすると、『ザップ・ガン』みたいなクズができてしまう」

 作者が自分の作品をクズ呼ばわりするの凄い。そしてこの文章をまさにその本の巻末に載せているのが凄い。作者がクズと言ってる作品を読まされる読者の身にもなれ。

 ただ一般的に、作者の自作品に対する評価はあてにならないと思っている。作者が目指す地平と読者が求めている地平は全く違うことが多いから。だから、ディックがクズ呼ばわりしているこの『ザップ・ガン』も、われわれ読者にとっては意外に名作、と言うのは言い過ぎにしても、けっこう読めるSFになっていると思う。ただ、「伏線を回収なんかしてるヒマがあったら、新たな伏線でもバラ撒いとけ」的な精神で書き殴られはいるので、話の整合性とかを考えるとアレだけれども。

 主人公の職業が「武器デザイナー」という時点でかなりぶっ飛んでいる。しかも武器のデザインはドラッグを飲んだときの霊的体験から得るという謎設定。さらにその霊的体験の元ネタがゴミみたいなコミックであることがのちに判明する。ここらへんはディックのユーモアのセンスが発揮されている。ディックはユーモアを書かせてもうまかったと思う。この小説とか、短編「人間以前」を読むとそう思う。