つやだしのレモン

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R.D.Wingfield "A Killing Frost"

A Killing Frost (D.I. Jack Frost)

A Killing Frost (D.I. Jack Frost)

 フロストシリーズの最後を飾る傑作。いやー読み応えがあった。これまでにない新たな要素が続々と登場し、作者の気合が伺える作品だけに、これが最後の作品になったのは残念。もっとこのシリーズを読みたかった。
 以下ネタバレ。





 少女誘拐強姦事件が発生しているのはいつもの通りだが、今回は新要素として、
・フロストの新たな上司として主任警部スキナーが登場
・フロストが他署に左遷の危機
・新たな女性検死官が登場、フロストといい感じのムードに

 主任警部のスキナーは捜査の大半をフロストに押しつけるくせに、いざ事件が解決すると自分の功績としてさらっていくという最低のクズ野郎。スキナーは署長のマレットと共謀してフロストを他署へ左遷させる企みを張り巡らし、フロストはまんまとその陥穽にはまりこんでしまってにっちもさっちもいかない状況に……。
 一方、嫌味な検死官ドライズデールは半引退状態になり、新たな検死官として現れたのは中年女性。その女性がなんと物好きなことにフロストにデートを申し込み(それも死体解剖中に)、フロストには第2の春が訪れたんだけど、無駄に忙しいフロストはそのデートをすっぽかしてしまい……。
 
 フロストのシリーズはどれも面白いが、本作はその中でもとりわけ完成度が高い。前作の『Winter Frost』はややマンネリの感が否めなかったけど、本作では様々な新機軸を打ち出してそのマンネリを華麗に打破した印象。事件は混乱に混乱を重ね、行き当たりばったりの捜査は当然のようにとんちんかんな方向に邁進し、そんな中でもフロストのブラックジョークはいつになく冴え渡る。

 フロストシリーズで未翻訳なのは『Winter Frost』と『A Killing Frost』の2作品。『Winter Frost』の邦訳が創元社から出版されるのが1、2年後くらいなので、『A Killing Frost』が日本で読めるのは2025年くらいだと思われる。原書のページ数的に考えると上下巻に分かれるのは必至なので、翻訳にもっと時間がかかる可能性も。なので、フロストシリーズが読みたい人は原書に挑戦しないと読めずに死ぬことになるかも。