手塚治虫『メタモルフォーゼ』 けなげな弱者
手塚治虫は「けなげな弱者」を描くのが好きだ。手塚治虫作品では「泣かせる」作品が結構あるけど、その多くはけなげな弱者のパターンに沿っている。
「弱者」は人間だったり、動物だったりする。社会的に弱い立場にある人だったり、人に飼われている動物だったり。この短編集でいうと、「おけさのひょう六」で、猫が飼い主の優しさに応えて、その死まで寄り添う。
ときには、弱者は植物だったりロボットだったりする。植物のパターンは「夜よさよなら」のサボテン、ロボットのパターンは「ダリとの再会」の看護婦ロボット。本来ならば意思や感情をもたないはずの存在が、人間のように振る舞うところに感動のポイントがある。
話の展開としてはいわゆる浪花節的なパッケージなので、新規性とかはないのだが、やはり漫画としての見せ方がうまいので、ベタな展開でも感動させられる。
この短編集で特にぐっとくるのは「おけさのひょう六」。領主を諷刺する踊りを踊る農民、笠をかぶって踊る猫など、話のパーツにオリジナリティがあって引き込まれる。
あと手塚治虫の描く猫は他のどの漫画家よりも可愛い。