つやだしのレモン

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『A Normal Lost Phone』レビュー

 7  /  10

 

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GOOD

ミステリーのような「謎解き」

 サム(Sam)という名前の18歳の「青年」が落としたスマホを覗き見するゲーム。

 物語はミステリーに近く、サムが隠していることを少しずつ明らかにしていくという内容になっている。一見するとサムは平凡な高校生だが、SNSトーク履歴や出会い系アプリでのコメントを見ていくと、違和感を覚える箇所がいくつか出てくる。book clubに所属しているはずなのに出会い系アプリでは「読書は苦手」と言っていたり、ボードゲーム部の友人からはサムではなくサミラ(Samira)と呼ばれていたり、3年付き合った彼女に唐突に別れを切り出したり。

 こういう違和感は、サムのプライベートに踏み込んでいくうちにきれいに解消され、謎は解けていく。各所に違和感を仕込み、それを後半で回収していく流れが見事で、テキスト量は多いものの時間を感じることなくプレイできる。

 

BAD

希薄な動機づけ

 「落とし物のスマホの中を覗き見する」というのはモラルある行動とはいえない。だからこそ、「スマホを覗き見しなければならない状況」が設定されているべき。例えば「サムが犯罪を犯して、その動機を探るためにスマホを見る必要がある」とか、あるいは「プレイヤーは実はサムの両親で、サムが失踪した理由が知りたくてスマホを見てしまう」みたいな。

 本作にはそういう設定が存在せず、ただスマホを拾っただけの人が覗き見しているので、スマホを覗き見することへの動機づけが薄い。また、覗き見するだけならまだしも、プレイヤーは書きかけのメールを送信したりデートアプリで写真を送ったりみたいなことも要求されるので、「こんなことしていいのかな」という気持ちが常につきまとう。

 とりわけ、このゲームは「性自認とカムアウト」という非常にシリアスなテーマを扱っているため、モラル面はかなり気になる。自分の性をカムアウトすることをサムが深く悩んでいるのに、プレイヤーは許可なくそのプライベートを覗き込んでサムの秘密の日記すら読んでしまうのは、ゲームに託されたメッセージと相容れないように見える。もしこれがコミカルな内容のゲームであれば、フィクションとしての覗き見行為を楽しんでもいいとは思うが、このゲームはそういう覗き見行為を楽しむようなタイプの作品ではない。

 

パスワード探しが難しい

 物語を先に進めるためには、登録制サイトや出会い系アプリなどのパスワードを見つける必要がある。パスワードの手がかりはトークやメールに書いてあるけど、一部はかなり難しい。

 以下の2つのパスワードは自力では分からず、海外の攻略サイトを見て進めた。詰まってる人がいるかもしれないので回答を載せておく。

 

f:id:koyasho25:20210825194452p:plain▲出会い系アプリの「Sam-Thing-Else」のパスワード
→「1219」:サムがLGBTのイベントに参加した日付。

 

f:id:koyasho25:20210825194457p:plain▲電卓アプリ(偽装)のパスワード
→「85922」:LGBTのイベントが開催された都市Covoniaのzip code。LGBT向けの登録制サイトに「電卓アプリのパスワードはあなたたちみんなを表してる」と言っているけど、まさか都市のzip codeとは思わなかった。