つやだしのレモン

読んだもの、見たものの感想を書く場所。

『音もなく少女は』 「愛の物語」に偽装された「ヘイトの物語」

音もなく少女は (文春文庫) 作者: ボストンテラン,Boston Teran,田口俊樹 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2010/08/04 メディア: 文庫 購入: 5人 クリック: 49回 この商品を含むブログ (59件) を見る ボストン・テラン『音もなく少女は』の感想。ネタバレ…

『何が私をこうさせたか』 不可解な人生を歩かされることへの困惑

何が私をこうさせたか――獄中手記 (岩波文庫) 作者: 金子文子 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2017/12/16 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る ・『不当逮捕』の記述 本田靖春『不当逮捕』の中に、朴烈事件の金子文子についての記述がある…

『食糧人類』 楽しいスプラッターSF

食糧人類?Starving Anonymous?(1) (ヤングマガジンコミックス) 作者: 蔵石ユウ,イナベカズ,水谷健吾 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/09/20 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (3件) を見る 完結したので感想。全7巻。ネタ…

STAP細胞事件の「なぜ?」を考える

・なぜ小保方氏はいまだに注目されるのか? 小保方晴子氏はSTAP論文不正事件のあと、2冊の本を出している。『あの日』と『小保方晴子日記』である。本を書くだけでなく、瀬戸内寂聴と対談したり、グラビアを撮ったりもしている。今でも、彼女がなにかするた…

市橋達也『逮捕されるまで』 強烈な自己愛

逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録 作者: 市橋達也 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2011/01/26 メディア: 単行本 購入: 15人 クリック: 1,224回 この商品を含むブログ (35件) を見る 市橋達也の手記。市橋はリンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の犯人…

宮本常一『イザベラ・バードの旅』 地方に住む人々の話

イザベラ・バードの旅 『日本奥地紀行』を読む (講談社学術文庫) 作者: 宮本常一 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2014/04/11 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る イギリスの女性イザベラ・バードは、1878年に日本を訪れ、その顛末を『日本…

ディック『小さな黒い箱』 「ラウタヴァーラ事件」「運のないゲーム」が名作

小さな黒い箱 ディック短篇傑作選 (ハヤカワ文庫SF) 作者: フィリップ K ディック 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2017/11/30 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 「ラウタヴァーラ事件」が結構好き。文化の違いをグロテスクに書いている。 …

アイリッシュ『シルエット』 哀愁あふれる短編集

シルエット―アイリッシュ短編集 (4) (創元推理文庫 (120-6)) 作者: ウィリアム・アイリッシュ,村上博基 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 1974/03 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (2件) を見る アイリッシュ短編集4。1974年刊行。 印象に残ったの…

アイリッシュ『黒衣の花嫁』 未亡人の復讐物語

黒衣の花嫁 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者: コーネルウールリッチ 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2017/08/31 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る アイリッシュの「ブラックもの」第1作。夫を殺された妻が、復讐のために連続殺人に手を染め…

ジャン・ユンカーマン『沖縄 うりずんの雨』 3つの差別

『うりずんの雨』パンフレット (はてなダイアリー2015/08/01より再録) 神保町の岩波ホールで観た。 この映画では、「沖縄」をめぐる問題の根底にある、様々な差別意識が語られている。映画の中で、証言者を通じて浮き彫りにされていた差別意識は、あえて大…

ティプトリー『愛はさだめ、さだめは死』 「接続された女」はSF史に残る傑作

愛はさだめ、さだめは死 (ハヤカワ文庫SF) 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,浅倉久志 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1987/08/01 メディア: 文庫 購入: 11人 クリック: 99回 この商品を含むブログ (79件) を見る 数年前の初読時は、なんだかよ…

島尾敏雄『死の棘』 読書体験そのものが泥沼

死の棘 (新潮文庫) 作者: 島尾敏雄 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1981/01/27 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 82回 この商品を含むブログ (128件) を見る ・泥沼のごとき小説 作者の実体験をもとにした私小説。トシオの不倫がきっかけで妻のミホは精…

アイリッシュ『夜は千の目を持つ』 行き当たりばったりの適当サスペンス

夜は千の目を持つ【新版】 (創元推理文庫) 作者: ウィリアム・アイリッシュ,村上博基 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2018/11/21 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 推測される当初の構想 『幻の女』で有名なウィリアム・アイリッシュが、「…

ティプトリー『故郷から10000光年』 この読みにくさもティプトリーの魅力か

故郷から10000光年 (ハヤカワ文庫SF) 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,伊藤典夫 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1991/04 メディア: 文庫 購入: 8人 クリック: 105回 この商品を含むブログ (50件) を見る ティプトリーの第一短編集。全体的に読…

『新語・流行語大全』 「なぜだ!」

新語・流行語大全1945‐2005―ことばの戦後史 作者: 木村傳兵衛,谷川由布子 出版社/メーカー: 自由国民社 発売日: 2005/12 メディア: 単行本 クリック: 4回 この商品を含むブログ (3件) を見る 印象に残った言葉のみ以下にリストアップ。 ・かつぎ屋 戦後の闇…

ポール・ウィリアムズ『フィリップ・K・ディックの世界』 ディックは病気

フィリップ・K・ディックの世界 作者: ポールウィリアムズ,Paul Williams,小川隆 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2017/08/29 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る ・自宅侵入事件を中心にしたインタビュー集 1971年にディックは自宅…

アイリッシュ『幻の女』 幻の都市の雰囲気

ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』の感想。ネタバレあり。 幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者: ウイリアムアイリッシュ,William Irish,黒原敏行 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2015/12/18 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (8件) …

堀尾省太『刻刻』 見せ方がとにかく巧い漫画

刻刻(1) (モーニングコミックス) 作者: 堀尾省太 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2012/09/28 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る ・緻密な設定 設定がとにかく緻密。物語の中でのルールが確立されていて、そのルールに則ったうえでの読み合…

ポン・ジュノ『殺人の追憶』 笑いと哀しみの絶妙なバランス

・懐かしさのある映画 この映画にはジブリ映画のような懐かしさがある。何度見ても味があるというか、たくさん噛んでも味がするというか。 その理由は2つあって、1つは風景が美しいこと。韓国の田舎の風景が見事に切り取られている。『母なる証明』でも風景…

手塚治虫『メタモルフォーゼ』 けなげな弱者

メタモルフォーゼ (手塚治虫文庫全集) 作者: 手塚治虫 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2011/07/12 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 2回 この商品を含むブログを見る 手塚治虫は「けなげな弱者」を描くのが好きだ。手塚治虫作品では「泣かせる」作品が…

『カリブ諸島の手がかり』 ジャンルを超越する快感

カリブ諸島の手がかり (河出文庫) 作者: T S ストリブリング,倉阪鬼一郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2008/08/04 メディア: 文庫 クリック: 12回 この商品を含むブログ (24件) を見る ・推理小説というよりは、雰囲気を楽しむ小説 カリブ諸島の雰…

本田靖春『疵』 極私的な戦後史

疵―花形敬とその時代 (ちくま文庫) 作者: 本田靖春 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2009/08/10 メディア: 文庫 クリック: 3回 この商品を含むブログ (4件) を見る 極私的な戦後史 解説に、この本は著者の本田靖春による「極私的な戦後史」である、という…

昔、マクドナルドの公式ウェブサイトで公開されていたflashゲーム

今日、突然、冒険@mc島というゲームを思いだした。自分が昔パソコンで遊んでいたゲーム。 マクドナルドの公式ウェブサイトで公開されていたflashゲームで、小学生の一時期にハマり、しばらくプレイしていた。マクドナルドの主要キャラであるドナルドやグリマ…

湯浅誠『反貧困』 すべての人に居場所のある社会

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書) 作者: 湯浅誠 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2008/04/22 メディア: 新書 購入: 45人 クリック: 434回 この商品を含むブログ (216件) を見る 「貧困=自己責任」は正しいのか 筆者はまず、「貧困は自己責…

パク・チャヌク『親切なクムジャさん』 圧倒的センス

親切なクムジャさん(字幕版) 発売日: 2018/01/12 メディア: Prime Video この商品を含むブログを見る パク・チャヌク監督『親切なクムジャさん』の感想・レビュー。ネタバレあり。 以下は予告編。 ・画面にみなぎる緊張感とリアリティ 映像の美しさ。ポン・…

都留泰作『ムシヌユン』 性欲と劣等感を妥協なく

ムシヌユン 1 (ビッグコミックス) 作者: 都留泰作 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2014/07/30 メディア: コミック この商品を含むブログ (9件) を見る 全6巻の感想。ネタバレあり。 ・ダメ人間をリアルに描いた怪作 性欲と劣等感に支配された非モテ男子の…

ナ・ホンジン『コクソン』 パズル映画の消化不良

いろんな要素がごたまぜにされて、よくわからない映画。映像はところどころインパクトがあるし、ホラーとして引きつけるところもあるんだけれど、物語としては尻すぼみなので、いまいち充実感がないままに見終わった。 この映画をどう「解釈」すればいいか、…

『ダンケルク』 「スペクタクルと感動」というハリウッドの文法

『バンド・オブ・ブラザーズ』と比較すると、この映画はスペクタクルと感動に寄せすぎ。無理に見せ場を作ろうとしているので安っぽくなっている。 例えば、不時着した戦闘機からパイロットが脱出しようとするも、フロントガラス?が開かずに溺れそうになる。…

『シェイプ・オブ・ウォーター』 オスカー狙い、あるいはデル・トロのオタク性

ギレルモ・デル・トロ監督『シェイプ・オブ・ウォーター』(2018年)の感想・批評。 ・デル・トロの作家性 文春オンラインの『「シェイプ・オブ・ウォーター」は、インテリぶるには格好の映画だ』という批評、記事のタイトルは目を引くために大げさにしてい…

『13の理由』 マイノリティは加害者にもなりうる

『13の理由』Netflixオリジナルドラマ。全13話。感想と批評。ネタバレあり。 【好きなところ】 ・過去と現在が入り交じる映像 ハンナがいた「過去」と、ハンナのいない「現在」。過去と現在の出来事がないまぜになって提示される。「現在」のクレイが、「過…