ディック『アルファ系衛星の氏族たち』 ディックらしさが随所に
- 作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,友枝康子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1992/11
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
ディック作品ではお馴染みの、「強気な妻に振り回される夫」が主人公。『火星のタイムスリップ』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『去年を待ちながら』などでも離婚問題を抱えた夫が主人公になっている。作者のディック自身が何度も離婚しているが、その経験をそっくり小説に生かしている。
ただ気になるのは、これらの小説の結末がすべて、「妻は強欲でガミガミとうるさい奴だけど、やっぱり一緒にやっていこう」という肯定的な姿勢で終わっているということ。4回も離婚してる人間が言うことじゃない。
それ以外にも、本作にはディック作品には繰り返し現れる独特なガジェットが登場。例えば「シミュラクラ」「コナプト」「予知能力者(プレコグ)」など。中でもとりわけ奇妙なのが、ガニメデからやってきた「粘菌」。アメーバのような生物で、テレパシー能力を駆使して主人公に助力してくれるいい奴。「人はだれも離れ小島ではない」というディックお気に入りのセリフを主人公に伝えるのもこのキャラ。「人間ではないのに、人間よりずっと人間らしい」というモチーフがここにも登場。