つやだしのレモン

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ディック『ライズ民間警察機構』 気持ちのよいぶっ飛び方

ライズ民間警察機構―テレポートされざる者・完全版 (創元SF文庫)

ライズ民間警察機構―テレポートされざる者・完全版 (創元SF文庫)


 元は『テレポートされざる者』という中篇で、これにさらに加筆して出来上がったのがこの小説。内容は崇高なまでにグチャグチャといりこんでおり、しかもそれをまとめ上げるつもりはさらさらないエンディング。話の脈絡、そんなものはこの作品にはない。ただただ作者の筆が赴くままに進んでいくストーリー。登場人物が直面する現実は過酷極まりないが、それと同じくらいに読者も過酷。

 ただ、加筆部分の出来は素晴らしく、現実がバラバラと崩れていくさまはディックの他作品にも類をみないほどカオス。惜しむらくは、これほどぶっ壊れた展開なので話としては収拾がつかずに、作品自体としては尻すぼみになってしまうということ。『死の迷路』と同じパターン。

 こういう作品を読むと、『ユービック』や『電気羊』がいかにバランスのとれた作品かが分かる。狂気の中にそれを演じている正気が含まれていないと、読者の理解の範疇を超えてしまうということ。

 ただ、一つ付け加えると、『ライズ民間警察機構』が駄作であることには間違いないけど、でもディックの駄作には、不思議な魅力があるということ。めちゃくちゃな内容であるがゆえに、そのめちゃくちゃさに魅了されてしまうというか。駄作だからこそのぶっ飛び方が逆に癖になる。『ユービック』のように作品として均整のとれたものもいいけど、『ライズ』のように原型がないほどに溶けてぐちゃぐちゃになった小説にも良さがある。