つやだしのレモン

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グエムル

 グエムル (2006年、ポン・ジュノ


○印象・感想

 韓国発のホラーサスペンス。大量の化学薬品が川に廃棄されたことで誕生した怪物をめぐって、主人公一家がてんやわんやを繰り広げる物語。

 なんといっても、シナリオが練りに練られています。無駄なシーンがない。終始ワクワクしながら観てました。緊迫した場面が続いたと思ったらコメディタッチのシーンに切り替わったりと、自由自在に物語は展開します。ただ、こういう「ごった煮」系映画が陥りやすい、「いろいろ詰め込んだせいで仕上がりが安っぽい」感はそれほどない。シリアスな物語を壊さない程度のユーモアが絶妙です。



○ヒネリを加えた怪物映画

 見るもおぞましいクリーチャーは人々を惹きつけます。小説でいえば『ドラキュラ』『フランケンシュタインラブクラフト作品全般、映画だと『キング・コング』『ザ・フライ』『エレファント・マン』などなど。おどろどろしい怪物が日常生活に侵入してくる、という構図はそれだけで面白いですし、怪物を倒すために画策する人間たちのドラマなんかも見ごたえがありそうです。

 しかし、怪物をテーマにした映画は山ほどあるので、どこかに独創性がないとワンパターンで紋切り型な駄作になってしまいます。その点で、『グエムル』はたいへん巧みに、従来の怪物映画の典型に対してヒネリを加えています。
 まず第一に、主人公が徹底的にダメ人間であるということ。「冴えない三枚目」を主人公に据えるのが最近の映画の流行ですが、それを怪物映画でやるのは斬新。怪物に対して視聴者が期待するのは、人間がそれをいかに倒すか、ということですが、主人公がまるでダメ人間だとその期待がスカされてしまう。見た目・内面ともにブサイクな本作の主人公は真正の穀潰し野郎で、このダメ人間がダメ人間なりに怪物を倒そうとするというプロットが素晴らしい。
 二点目は、ごくごく庶民的な家族が怪物討伐に挑むこと。妹を怪物に誘拐された家族が、一体となってグエムル退治に乗り出す展開は燃えます。家族の構成員それぞれのバックグラウンドが要所要所でちりばめられているので、彼らの過去をいろいろ想像しながらの鑑賞が楽しい。ハリウッド映画にありがちな「親子愛」系ではないタイプの「血の繋がり」をテーマにした映画は斬新でした。

 一方で、怪物が生まれた理由が極めてありきたりであることや、お約束な展開が少なからずあったことなどは欠点です。特に、最後の場面、怪物を倒すことのカタルシスがそれほど感じられなかったのは惜しい。あそこはもっと派手に立ち回ってもよかったように思います。それでも、全体的には完成度の高い、緻密な構成の名作ホラーでした。