不思議のひと触れ
- 作者: シオドア・スタージョン,大森望
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/08/04
- メディア: 文庫
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●作品メモ
- 題名が示すように、不思議な味わいの短編集。
- 大事なのは「物語」ではなくその「語り方」である。大ざっぱなSF的設定と、オシャレで引き締まった文体が同居している。
- 「タンディの物語」がハイライトで、「影よ、影よ、影の国」も印象に残る。
●お品書き
- 「高額保険」
20歳でこの短編を書いたらしい。どういう育ち方をしたらこんな文体を身につけられるのか。
- 「もうひとりのシーリア」
宇宙人だからといって必ず地球を侵略するわけではないし、地球人と不思議な友情を結ぶわけでもない。ただ単に社会に紛れて地球人の振りをして生活する宇宙人がいたっていいじゃないか。そんな宇宙人の生活を覗き見する話。
- 「影よ、影よ、影の国」
子どもの暗い妄想を凄みのある筆致で。
グウェン母さんがまた悲鳴をあげた。こんどはかすれた悲鳴だった。犬が吠える声に似ていたが、その声はいつまでも長く長く尾を引いて消えていった。
母親の悲鳴を「犬が吠える声」に例える発想がすごいな。なんて醒めているのだろう。
- 「裏庭の神様」
『輝く断片』の「取り替え子」とアイデアは同じ。夫婦の再生を描く短篇が多い。
- 「不思議のひと触れ」
これが表題作? 「不思議のひと触れ」(a Touch of Strange)という言葉の響きは素敵だけれども。少女漫画風の恋愛譚にしかみえない。
- 「ぶわん・ばっ!」
こういう音楽の話は読んでいて楽しい。耳で聴くものを文字で読むのは不思議。
- 「タンディの物語」
これはタンディの物語だ。しかし、まずはレシピから。用意する材料――カナヴェラルのくしゃみ、縮れのできたゲッター、漂う存在、サハラ墜落事故のアナロジー、ハワイと失われた衛星、利益分配計画のアナロジー。
なんて素敵な幕開け。物語も楽しい。この短編集では随一の作品。
- 「閉所愛好症」
なんだろうこの尻すぼみ感は。「文体は饒舌だけど、肝心なところは曖昧」なのが良かったのに、文体に釣られて全てを曝け出している。
- 「雷と薔薇」
核戦争に警鐘を鳴らす話。どこかで読んだことがあるような話。
- 「孤独の円盤」
なぜこの作家は結末にロマンスをもってくるのだろう。その方が売れたのだろうか? そこまでは不思議で奇妙な味わいの物語なのに、結末の展開で一気にハーレクイン臭が立ち込める。
●まとめ
たしかに不思議なひと触れだったけど、個人的には『輝く断片』の方が性に合っている。あちらの方が奇妙さでは輝いていた。二冊とも、文体が素晴らしいのに、短編の筋書きがイマイチという作品が多い印象。どうしようもなくなってハインラインにアイデアを借りたというのも頷ける。