つやだしのレモン

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半村良『能登怪異譚』 方言で語られる民話風の短編集

能登怪異譚 (集英社文庫)

能登怪異譚 (集英社文庫)

 

 『日本SF短篇50』に収録されていた半村良「およね平吉時穴道行」が個人的に大好きな短篇だったので、半村良の別の作品を読んでみた。

 『能登怪異譚』というタイトルの通り、能登の方言で語られる民話風の短編集。能登に住む人々が、能登の方言で語るという面白い形式の小説。

 能登の方言はまったく知らないが、でもちゃんと読める。たぶんこの文章を音で聞いたら半分も理解できないだろうけど、こうやって文字に書かれたものを読むぶんには結構分かる。表意文字としての漢字の優秀さ。

 

 一番印象的だった短篇は「仁助と甚八」。日常の中にありそうな不思議な感じを体験できる。途中までは何てことはない酔っぱらいの戯言のような話なのに、急に「え?」と読者を驚かせる仕掛けがあって面白い。よく分からないままに小説は終わるんだが、そのよく分からなさがちゃんとホラーになっている。

 方言の力ってとても強くて、標準語と比べて感情が乗っているように響く。だから、同じ内容のセリフを言うにしても、方言のセリフのほうが本心から出た言葉のように聞こえる。

 この小説も、そういう方言の力をうまく小説に取り入れている。方言が、物語と読者との間にある距離を埋めてくれるので、読者は物語にすっと入りやすい。