『The Wanderer: Frankenstein's Creature』レビュー
7 / 10
GOOD
小説『フランケンシュタイン』のゲーム化
メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』のゲーム化。『フランケンシュタイン』の「怪物」がどのような足跡をたどり、フランケンシュタインに復讐するに至ったかを描くゲーム。プレイ時間は2時間程度。
『フランケンシュタイン』が原作だが、このゲームは小説の内容をそのままゲーム化しているわけではない。小説中で「怪物」の口から断片的に語られた内容をゲーム化している。だからこのゲーム、メアリー・シェリーの小説を知っていることが前提になっている。
後半には原作からの改変があるが、その改変もまた、小説の読者だから分かるものになっている。これは、小説未読の人にはピンとこない展開ではある。
小説『フランケンシュタイン』ではフランケンシュタイン博士の視点で物語が進むため、「怪物」の物語のほうは怪物の口から語られるに過ぎなかった。このゲームは逆に、「怪物」の視点で進んでいくのが特徴。博士の手で生み出された怪物がどのように世界を獲得し、言葉を覚え、博士への復讐を誓うに至ったかが描かれる。
『フランケンシュタイン』を読んだとき、怪物が山奥にある一軒家の納屋に隠れて、その家に住む家族の会話を盗み聞きすることで言葉を覚えたというエピソードが今でも印象に残っていたので、それをゲームで体験できたのは感動した。
ひねりの効いた演出
わざわざ古典小説をゲーム化しているだけあって、アドベンチャーゲームとしての演出はなかなか工夫されている。
例えば、誕生直後の「怪物」は赤子と同じ状態で、何も分からない。そんな怪物がしだいに世界を獲得していく過程の演出が面白い。最初は色のない、ぼやけた曖昧な世界だったものが、次第に輪郭と色彩を持つものとして目の前に現れていく。また、最初は人間の言葉をまるで理解できなくて、でも自分に対する憎悪の感情だけは理解できて、納屋での盗み聞きで次第に理解できる言葉が増えていく。
水彩画のようなグラフィックも美しく印象的。特に、北国で出くわす「祭り」の風景は色鮮やか。
BAD
プレイヤーの感情を揺さぶるような要素に欠ける
全体的に、ゲームは淡々と進み、淡々と終わる。プレイヤーに「ストーリーを早く見たい」と思わせるような要素は乏しい。
序盤に、怪物が人間のコミュニティから追い出される場面が何度か出てくる。怪物が排斥される理由はひとえに「見た目がとにかく醜いから」だが、プレイしているときに怪物の醜さを実感するような場面はない。だから、怪物が排斥されることに対して共感を持てないし、だから人間たちが怪物に向ける激烈な憎しみもなんだか遠い異世界のことに見えてしまう。
アドベンチャーゲームは他のゲームと比較すると、プレイヤーの感情を揺さぶるような仕組みの必要性は大きい。特にこのゲームのように、戦闘やアクションがあるわけではない、昔ながらのテキストベースなアドベンチャーなら尚更。キャラクターに共感させたり、逆に嫌悪させたり、葛藤させたりすることで、プレイヤーをゲームにつなぎとめることが重要になる。
プレイヤーの感情に訴えかけるという点では、このゲームはあまり成功はしていない。「怪物」といういかにも現実離れした存在を、外側から眺めているような感じでゲームは進んでいくから、あんまりコクはない。