つやだしのレモン

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三角草

 押切蓮介 ミスミソウぶんか社


○概要

 押切蓮介さんのシリアスホラー。押切さんといえば『でろでろ』『ゆうやみ特攻隊』の「ゆるフワ系ホラー」で有名ですが、暗い雰囲気のホラー漫画もいくつか描いています。このミスミソウはその代表作で、他には『サユリ』なんかも面白かったです。



○でも高校生活ってこんな空気だよね

 ストーリーが魅力的なのは随所で語られているので、ここでは私の印象に残った箇所を。

 登場人物たちが通っている高校の描写を見て、「高校生活ってこんな空気だったよなー」としみじみと思い出しました。

 「高校生」は立ち位置としてはとても中途半端です。中学生ほど子どもではないし、かといって大学生ほど成熟していない。そろそろ将来のことを心配しはじめないといけない時期で、いろんなことを内省的に考え始める年齢でもあります。みんな大人っぽい振る舞いをしたがるので、内心では動揺していてもドライな対応をしたり、よく分からない主義主張を振りかざしたりするようになって。

 この漫画の高校生たちを見ると、私の高校時代を思い出します。長くて退屈な授業と、休み時間には友人との他愛のないお喋り。基本的にはこれの繰り返しで、3年間みっちりとそれに慣らされていく。退屈で乾いた雰囲気。

 たしかにつまらないけど、でも高校に行かないよりは行っていたほうが将来のためになると思うし、何より行くのは義務だ。そんな風にして「なんとなく」高校に行っているうちに、楽しいとか面白いといった感情は麻痺して、新しいものを求める好奇心も鈍ってしまう。何かいつもと変わったことが起きても、それは「日常から少し外れただけの些事」としか捉えられない。そう捉えるのが「大人」なんだと勝手に思っている。まだまだ世間を知らない青臭いガキのくせに。

 みんなどこかで無理をしているから、高校生活はよりいっそう退屈でつまらないものになる。中学生の頃は大騒ぎしていたようなことは、高校では「スルーする」ことで無かったことにしてしまう。素直な気持ちを吐露するチャンスなどない。自分の良い部分は隠れて、悪い箇所ばかり目につき始める。卑屈なほうへと気持ちは伸びていく。

 『ミスミソウ』の「いじめ」は、規模こそ違えどどんな高校にもあるんじゃないかと思う。ただ、大半の人がそれをスルーしているのだろう。視界からそらすことで、自分とは無関係のものにするのだ。「いじめ」ぐらいで大騒ぎする時期はすぎているから。「いじめ」ももはやちょっとした遊びの一つ。つまらない高校生活をちょっぴり楽しく演出するルーチンワークの一環。それが「大人」の振る舞いだと勘違いしている。で、こういう勘違いが行き過ぎると、『ミスミソウ』で演じられるような悲劇を生む。

 今思い返すと、いったい高校生活って何だったのだろうと思います。心の底から楽しいと思えたような経験は思い出せません(じゃあ今それがあるのかといえば困りますが)。干乾びた石鹸のような、ゴワゴワするばかりで潤いのない雰囲気。高校生活を楽しくできるかどうかで、その後の人生の方向性は大きく変わってくるのではないでしょうか。その意味では私の高校生活は失敗でした。