つやだしのレモン

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【読書メモ】新井英樹『キーチ!!』『キーチVS』

キーチ!! (1) (ビッグコミックス)

キーチ!! (1) (ビッグコミックス)

●作品メモ

  • 『キーチ!!』は第6巻から怒涛の展開を見せる。第5巻までは、それ以降の物語に迫力をつけるための助走と言っていい。全9巻のうち、5巻分を助走に使うのだから、かなり贅沢な構成なのだが、物語の性質上これは仕方ないとも思うし、もっと削っていいとも思う。
  • 正直、前半は読んでいてかなりしんどい。幼稚園児のキーチが舌足らずな言葉づかいで叫ぶシーンのところは、まるで「わんぱくキーチくんの成長日記」を読まされているような気になる。前半で読むのを止めた人もかなりいるのではないかと思う。
  • 『キーチ!!』の主人公のキーチが、あまりにも神々しすぎる、無色透明すぎることに不満を持っている人は、その続編の『キーチVS』を読んでほしい。『キーチVS』は『キーチ!!』を助走として使って、さらに高いところへ跳躍しようとしている。『キーチ!!』よりもさらに政治色は増すし、現実の話題を取り入れているので読者との距離も近くなっている。
  • でもどちらの作品でも、キーチよりも甲斐の方が魅力的な登場人物だ。『キーチVS』で栗田冷蔵の社長の娘のマンションで、キーチと甲斐が合う場面でも、最初の甲斐のセリフ、

「10年や。出会うて 組んで 動いて ここまで……10年や。互いの目ぇに互いがな… 今日、今どう映っているかは… 重ねた時間をもってしても、計れん部分があるもんやて しみじみ思うわ」

 この後の長い長い甲斐の演説は、何度読み返してもいい。この漫画はむしろ甲斐の物語なんではないかとすら思える。『キーチ!!』でも、キーチが目立つ裏で工作を繰り広げたのは全て甲斐だったわけだし、その過程で自分の父親を切り捨ててもいた。キーチはその存在がカリスマすぎてあまりにも色がなさすぎるけれど、その対称で甲斐は人間的だ。